前略、駅前のカフェで待ってます。

第2話

卒業後、翔太は大手建設会社に就職。美咲は小さな建築事務所のインテリアデザイナーとして、それぞれのキャリアをスタートさせた。
お互いに仕事を覚えるのに忙しく会う機会は減ったが、電話やメッセージで励まし合い、交際は順調に続いていると思っていた。
少なくとも、美咲は。

「私たちって、付き合ってもうすぐ3年だよね…」
「あ…、うん。そうだよな…」

対面で座っていた2人掛けのテーブルに重苦しい空気が流れる。

翔太は何かを言おうとしていたが、その言葉を何度も飲み込んでいたのが分かった。

「チャンスなんだ…」
「え?」
「シンガポールで始まる大きなプロジェクトのメンバーに選ばれたんだよ。入社2年目でこんな大きなプロジェクトに参加できるって異例でさ。ビッグチャンスなんだよ!」

そう言う翔太の顔には何故か喜びの色はなく、むしろ何かに必死だった。そんな翔太の姿を見て、美咲は翔太の口から自分が想像していた「大事な話」は聞けないことを悟る。

「ふぅ…」

美咲は返事をする代わりに、大きくひとつため息をついた。

「大事な話って、それだけ?」

翔太は美咲の一言にハッ!とした表情で視線を上げる。この日初めて、ふたりの視線が交差した。

「じゃあ私、帰るね…」
「えっ?ち、ちょっと待って…!」
「出発の日が決まったら教えて。見送りはしたいから…」

美咲は静かに立ち上がり、テーブルの上の伝票を手に取った。

「おいっ!美咲っ…!」
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