Side Story 〜葉月まい 番外編集〜
一時帰国
「美桜、お帰り!」
「ただいま!お母さん」
十二月十八日
美桜はテーマパークでのクリスマスショーを控えて、日本に一時帰国した。
「はあ、いいね、こたつ。これぞ日本の冬って感じ」
「イギリスであんな豪華な生活送ってたら、ガッカリしちゃうでしょうけど。ま、この際だからこってり日本を味わって」
早速こたつに足を入れた美桜に、母が笑ってみかんとお茶を出す。
「おおー、いいわ。まさに王道だね。なんかホッとする」
甘いみかんを食べながら、のんびりおしゃべりを楽しんでいると、父も帰宅してきた。
「おお、美桜。お帰り」
「ただいま、お父さん。お土産あるよ。お父様がウイスキー持たせてくれたの」
「そうか!いやー、今回も飛び切り美味しいだろうな。早速今夜いただくよ。よろしくお礼を伝えてくれ」
「分かった。じゃあ、夕飯の支度するね』
手早く準備をして、三人ですき焼きを囲む。
「美桜、今回はいつまでうちにいるんだ?」
お肉を器に入れながら父が尋ねてきた。
「えっとね、明日からしばらくはここから職場に通うね。二十四日の朝にアレンが日本に来るから、そこからは職場の近くのホテルに泊まって、一月六日にイギリスに帰る予定。あ、お正月にはアレンと一緒にここに顔出すから」
「そうか、分かった。おせち料理を四人で食べよう。楽しみにしてるよ。いやーしかし、イギリスに行ってからの方が美桜はうちに寄りつくようになったな」
は?どういうこと?と美桜が眉根を寄せていると、母が笑い出す。
「ほんとよね。美桜、あなた一人暮らししてた時、ほとんどここに帰って来なかったでしょ?お盆もお正月も仕事だからって。顔を出すのはせいぜい、年に二回くらいだったかしら。それもちょこっとご飯食べたらすぐに帰っちゃって」
あー、確かに、と美桜も当時を振り返って苦笑いした。
「だってテーマパークは年中無休なんだもん。仕方ないでしょ?」
「でも閑散期はまとまった休みが取れるでしょ?それなのにここぞとばかりに絵梨ちゃんと旅行に行っちゃうし」
「それはそうでしょう。今行かずにいつ行くの?って感じなんだもん」
「まあね。だから諦めてたのよ。それなのにイギリスにお嫁に行ったあとは、夏休みも帰国して三週間ここで過ごしたし、今回もまた一週間ほどいるんでしょ?変な感じよね。イギリスに行った方が会えるようになるなんてね」
すると父も、あはは!と笑い出す。
「確かに妙な話だな。イギリスに行って寂しくなると思ってたのに、全く逆だ。こんなに美桜と会えるようになるなんて、父さん嬉しいよ。アレンくんには改めて感謝しないとな。元旦に会えるのを楽しみにしているよ」
「そうね、お母さんも。それになんだか美桜はアレンくんと結婚してから、何もかもが良い方向に進んでる気がするわ。テーマパークの仕事も続けられてるし、実家には顔を出してくれるし、素敵なアレンくんっていう旦那様と一緒にあんなにも豪華な生活を送れるなんてね。ちょっと、美桜。今更だけど、あなたシンデレラストーリーじゃないの?これ」
身を乗り出してくる母に、言われてみればそうか、と美桜も頷いた。
「ほんとだね。アレンは王子様みたいにかっこいいし、パレスは名前の通り宮殿みたいにゴージャスで。クレアとメアリーも良くしてくれてフレディの食事も美味しいし。お父様も優しくて、グレッグやメイソンも。あー、恵まれ過ぎてて怖いくらい」
両親もしみじみと頷く。
「まったくなあ。うちの娘がこんなに優遇されていいんだろうか?家柄なんて絶対に釣り合わないし」
五月に美桜とアレンの結婚式に参列する為に渡英した両親は、フォレストガーデンに滞在中も想像をはるかに超えた環境にびっくりし、更にはパレスでの披露宴でも「ロイヤルウェディングか!?」と目を丸くしていた。
「何かせめてものお礼をしたいと思いつつ、庶民の我々が出来ることって言ったらあちらにとっては失礼に当たりそうだしな」
困ったようにうつむく父に、美桜は明るく笑った。
「気にしないで。アレンもお父様も、本当にそんなこと気にしてないと思う。あ、でもお父様は日本が大好きだから、そうねえ、綺麗な景色の写真集みたいなのがあったら喜ばれるかも」
「へえ、そうなのか。それならいくつかそういうの、取り揃えておくよ。父さんカメラが趣味だから、思いつくのがあるんだ」
「うん、じゃあお願いね。きっと喜ばれると思う。あ、お父様が、またいつでもイギリスに来てくださいって。一緒にゴルフ回りたいんだって」
「おおー!あんな広大な土地なら、ゴルフ場もすごいんだろうな。予定が合えばぜひ行かせてもらうよ」
「分かった、そう伝えておくね。お母さんも、いつでも来て。一緒にフォレストガーデンのスパに行こうよ」
すると母も思い出したように笑顔を浮かべる。
「またあそこに行けるなんて!楽しみだわ。とっても素敵なところだけど、広すぎて全部見て回れなかったのよ」
「次は案内するからいつでも来てね。お母さんがいる間は私もフォレストガーデンに泊まるから」
「えー、いいの?楽しみ!」
すき焼きを食べた後は、フェスティバルの準備の為にあれこれとネットショッピングで材料を選んだ。
「すごいね、屋台のグッズってこんなに色々種類があるんだ。しかも全てパックになっててこれだけで完璧」
「そうね。お母さんも昔、町内会のお祭りやPTAの役員で準備したことあるわよ。業者じゃなくても一般にも売り出されてるんだって驚いたのよ」
「うんうん、私もそう思ってた。じゃあ、ヨーヨー釣りのセットと、このキャラクターのボールすくいと、輪投げと。あ!お父様のハッピと浴衣も買わなきゃ。え、すごーい!このハッピ、背中に名前が入れられるんだって。『ジョージ』ってカタカナで入れちゃおう」
「ええー?そんなことして大丈夫なの?」
「うん。だってお父様もハッピ着たい!っておっしゃってたし、そういうところはお茶目なの」
「そう?じゃあ、せめて浴衣はきちんとしたのをお渡ししなさい。お母さんが見繕うからね。アレンくんと、美桜のも」
「わーい!ありがとう」
そうして実家での時間はあっという間に楽しく過ぎていった。
「ただいま!お母さん」
十二月十八日
美桜はテーマパークでのクリスマスショーを控えて、日本に一時帰国した。
「はあ、いいね、こたつ。これぞ日本の冬って感じ」
「イギリスであんな豪華な生活送ってたら、ガッカリしちゃうでしょうけど。ま、この際だからこってり日本を味わって」
早速こたつに足を入れた美桜に、母が笑ってみかんとお茶を出す。
「おおー、いいわ。まさに王道だね。なんかホッとする」
甘いみかんを食べながら、のんびりおしゃべりを楽しんでいると、父も帰宅してきた。
「おお、美桜。お帰り」
「ただいま、お父さん。お土産あるよ。お父様がウイスキー持たせてくれたの」
「そうか!いやー、今回も飛び切り美味しいだろうな。早速今夜いただくよ。よろしくお礼を伝えてくれ」
「分かった。じゃあ、夕飯の支度するね』
手早く準備をして、三人ですき焼きを囲む。
「美桜、今回はいつまでうちにいるんだ?」
お肉を器に入れながら父が尋ねてきた。
「えっとね、明日からしばらくはここから職場に通うね。二十四日の朝にアレンが日本に来るから、そこからは職場の近くのホテルに泊まって、一月六日にイギリスに帰る予定。あ、お正月にはアレンと一緒にここに顔出すから」
「そうか、分かった。おせち料理を四人で食べよう。楽しみにしてるよ。いやーしかし、イギリスに行ってからの方が美桜はうちに寄りつくようになったな」
は?どういうこと?と美桜が眉根を寄せていると、母が笑い出す。
「ほんとよね。美桜、あなた一人暮らししてた時、ほとんどここに帰って来なかったでしょ?お盆もお正月も仕事だからって。顔を出すのはせいぜい、年に二回くらいだったかしら。それもちょこっとご飯食べたらすぐに帰っちゃって」
あー、確かに、と美桜も当時を振り返って苦笑いした。
「だってテーマパークは年中無休なんだもん。仕方ないでしょ?」
「でも閑散期はまとまった休みが取れるでしょ?それなのにここぞとばかりに絵梨ちゃんと旅行に行っちゃうし」
「それはそうでしょう。今行かずにいつ行くの?って感じなんだもん」
「まあね。だから諦めてたのよ。それなのにイギリスにお嫁に行ったあとは、夏休みも帰国して三週間ここで過ごしたし、今回もまた一週間ほどいるんでしょ?変な感じよね。イギリスに行った方が会えるようになるなんてね」
すると父も、あはは!と笑い出す。
「確かに妙な話だな。イギリスに行って寂しくなると思ってたのに、全く逆だ。こんなに美桜と会えるようになるなんて、父さん嬉しいよ。アレンくんには改めて感謝しないとな。元旦に会えるのを楽しみにしているよ」
「そうね、お母さんも。それになんだか美桜はアレンくんと結婚してから、何もかもが良い方向に進んでる気がするわ。テーマパークの仕事も続けられてるし、実家には顔を出してくれるし、素敵なアレンくんっていう旦那様と一緒にあんなにも豪華な生活を送れるなんてね。ちょっと、美桜。今更だけど、あなたシンデレラストーリーじゃないの?これ」
身を乗り出してくる母に、言われてみればそうか、と美桜も頷いた。
「ほんとだね。アレンは王子様みたいにかっこいいし、パレスは名前の通り宮殿みたいにゴージャスで。クレアとメアリーも良くしてくれてフレディの食事も美味しいし。お父様も優しくて、グレッグやメイソンも。あー、恵まれ過ぎてて怖いくらい」
両親もしみじみと頷く。
「まったくなあ。うちの娘がこんなに優遇されていいんだろうか?家柄なんて絶対に釣り合わないし」
五月に美桜とアレンの結婚式に参列する為に渡英した両親は、フォレストガーデンに滞在中も想像をはるかに超えた環境にびっくりし、更にはパレスでの披露宴でも「ロイヤルウェディングか!?」と目を丸くしていた。
「何かせめてものお礼をしたいと思いつつ、庶民の我々が出来ることって言ったらあちらにとっては失礼に当たりそうだしな」
困ったようにうつむく父に、美桜は明るく笑った。
「気にしないで。アレンもお父様も、本当にそんなこと気にしてないと思う。あ、でもお父様は日本が大好きだから、そうねえ、綺麗な景色の写真集みたいなのがあったら喜ばれるかも」
「へえ、そうなのか。それならいくつかそういうの、取り揃えておくよ。父さんカメラが趣味だから、思いつくのがあるんだ」
「うん、じゃあお願いね。きっと喜ばれると思う。あ、お父様が、またいつでもイギリスに来てくださいって。一緒にゴルフ回りたいんだって」
「おおー!あんな広大な土地なら、ゴルフ場もすごいんだろうな。予定が合えばぜひ行かせてもらうよ」
「分かった、そう伝えておくね。お母さんも、いつでも来て。一緒にフォレストガーデンのスパに行こうよ」
すると母も思い出したように笑顔を浮かべる。
「またあそこに行けるなんて!楽しみだわ。とっても素敵なところだけど、広すぎて全部見て回れなかったのよ」
「次は案内するからいつでも来てね。お母さんがいる間は私もフォレストガーデンに泊まるから」
「えー、いいの?楽しみ!」
すき焼きを食べた後は、フェスティバルの準備の為にあれこれとネットショッピングで材料を選んだ。
「すごいね、屋台のグッズってこんなに色々種類があるんだ。しかも全てパックになっててこれだけで完璧」
「そうね。お母さんも昔、町内会のお祭りやPTAの役員で準備したことあるわよ。業者じゃなくても一般にも売り出されてるんだって驚いたのよ」
「うんうん、私もそう思ってた。じゃあ、ヨーヨー釣りのセットと、このキャラクターのボールすくいと、輪投げと。あ!お父様のハッピと浴衣も買わなきゃ。え、すごーい!このハッピ、背中に名前が入れられるんだって。『ジョージ』ってカタカナで入れちゃおう」
「ええー?そんなことして大丈夫なの?」
「うん。だってお父様もハッピ着たい!っておっしゃってたし、そういうところはお茶目なの」
「そう?じゃあ、せめて浴衣はきちんとしたのをお渡ししなさい。お母さんが見繕うからね。アレンくんと、美桜のも」
「わーい!ありがとう」
そうして実家での時間はあっという間に楽しく過ぎていった。