Side Story 〜葉月まい 番外編集〜

それでもいい

「瞬、明日香ちゃん今うちに来てるみたいだぞ。一緒に来いよ」

ドラマの撮影終わり、マネージャーの富田が車のドアを開けながら瞬に声をかけた。

「はい、じゃあお邪魔します」
「ああ。4人で夕飯食べよう」

富田は自宅マンションまで車を走らせると、瞬と一緒に部屋に向かう。

「ただいま、紗季。瞬も連れて来たぞ」
「お帰りなさい。瞬も、いらっしゃい」

出迎えた紗季に「お邪魔します」と挨拶して靴を脱ぐ。

富田は紗季の頬にキスをしてから、リビングのドアを開けた。

「明日香ちゃん、いらっしゃい」
「こんばんは。お邪魔してます」

明日香が富田に挨拶する声が聞こえてきて、瞬は顔を上げた。

(えっ……、明日香)

思わず言葉を失くしてしまう。

明日香は、腕に富田と紗季の赤ちゃんを抱いていた。

「瞬くん、お帰りなさい」
「あ、ああ。ただいま」

かろうじて返事をする。

なぜこんなにも動揺しているのか、自分でも分からなかった。

身体を揺らしながら「美季ちゃーん、パパがお帰りですよー」と優しく赤ちゃんを見つめる明日香は、母性に満ち溢れていて美しい。

(初めて見る、明日香のこんな表情)

以前、映画の撮影で子役の健悟と仲良くしていたが、その時はただ楽しそうに笑っているだけだった。

今の明日香は、まるで本当の母親のように慈愛に満ちた表情を浮かべている。

(知らなかった、こんな明日香。いつか、我が子にもこんなふうにするのかな?いつか、俺と明日香の赤ちゃんにも……)

想像すると、顔が赤くなるのが分かった。

「瞬くん?どうかした?」

富田の腕に美季を預けた明日香が近づいてきて、そっと瞬の顔をうかがう。

「いや、なんでもない」
「そう?すぐにご飯の支度するね」

そう言って明日香は、紗季のいるキッチンに姿を消した。
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