龍神様と私の幸せな世界
「交番が……ない……?」
そこにあるはずの交番がなかったのだ。
先程スーパーに買い出しに行って、その際も目の前を通ったはずなのだが、そこには影も形もないではないか。
それどころか、街のようすがまったく見たことのない場所になっていた。
華やかなネオンライトの看板は一切なく、ぽつぽつと提灯の明かりが灯っているくらいだった。
美味しそうなおでんの香りが漂ってきて、椿のお腹がぐーっと鳴った。
(これは、どういうこと…?まるで社会の教科書で見たことのある、昔の時代みたいな…)
そんな景観が続いていた。
椿は混乱しながらも、来た道を戻った。
椿が住んでいた街とは何もかもが違って、しかしそこで椿ははたと気が付く。
「そうだ…神社…!神社に行こう!」
あの寂れた神社だけが、唯一椿の知っている場所であり、変わらず同じ場所に存在していた。
椿は歩き疲れふらふらになりながらも、寂れた神社へと戻って来た。
鳥居を見上げ、境内へと続く階段を駆け上がる。
「はぁ、はぁ……」
(さっきの人がまだいるかもしれない)
何かがおかしいと感じた椿は、さっきの人に話を聞こうと考えた。
境内へとやってきて、ぐるりと辺りを見回す。
雪の降り積もるそこには、二人の男性の姿があった。
装束を見に纏ってはいるが、二人共まだ若そうに見える。それこそ椿と同じくらいの齢ではないかと思われた。
(あ…、さっきの人じゃない……)
先程の優しそうな男性ならば、椿の話を聞いてくれるのではないかと思ったのだ。
この神社の禰宜(ねぎ)か何かだろうか。
椿は声を掛けようとして少したたらを踏んだ。
黒髪の男性と白髪の男性は、椿の足音に気が付きこちらを振り返った。
黒髪の男性は少し目つきがきつく睨むように椿を見、白髪の男性は打って変わって穏やかそうな笑みを浮かべた。
「ようやく戻ってきたのか」
「おかえりなさい」
「え……?」
まるで知らない二人からそんなことを言われて、椿は目を丸くする。今日は驚いてばかりだ。
椿は勇気を出して二人の男性に問い掛けた。