龍神様と私の幸せな世界
「椿、私は貴方を妻として迎えたい。遠い先の世界で私を支えてくれたのは、貴女だけだ。今度は私が貴方を幸せにしよう」
水司祢の言葉をうまく咀嚼できない椿は、口をぱくぱくさせるばかりである。
「ああ、そういえば紹介がまだだったね。椿の左隣に座っている黒髪の方が黎、向かいの白髪の方が冥だ」
「あ、はい…」
先程からのやり取りで二人の名前は知っていた。
そんなことよりも、先程の水司祢の妻発言が気になって仕方がない。
「椿は二人のこともよく知っているだろう?」
「え?」
水司祢に話を振られ、思考が中断する。
「彼らは私の使いであり、妖狐だ」
「妖狐……?あ、」
(もしかして、神社の境内の入口にいるお狐様?)
「雪の降る日、寒そうだと言って、椿様は僕達に襟巻を巻いてくれたね」
「俺の足元に0点のテスト隠したこともあっただろ?」
冥と黎の話に、椿は幼少期の出来事を思い出す。
「そ、その節はっ、…本当にすみません…」
恥ずかしさから顔を上げられなくなった椿に、水司祢は嬉しそうに笑う。
「さあ、椿。ご飯が冷めてしまうよ。たんとお食べ」
「あ、えっと…い、いただきます……」
正直言うと、歩き通しでかなりお腹が空いていた。
家でも何も食べずに買い物に出たため、お昼から食べていなかったのだ。
つやつやとして真っ白な米を口に運ぶと、自然と顔がほころんだ。
温かな鍋のスープで、身も心も温まっていくような感覚をおぼえた。
(こんなに美味しいご飯を食べたのは、いつぶりだろう…)
普段から母のためにご飯を作り、椿は節約のためその残りを食べていた。
お昼ご飯は毎朝自分で握った小さなおにぎり一つだったし、これほどにお肉も野菜もたっぷりなお鍋を食べたことはなかったかもしれない。
椿の食べているところをじっと見ていた水司祢は、椿に問い掛ける。
「お口に合ったかな?」
「はい!美味しいです」
「それはよかった。好きなだけ食べるといい」
水司祢があまりに椿を見つめてくるので、少々食べづらくはあったが、椿は久しぶりにお腹いっぱいにご飯を食べたのだった。