龍神様と私の幸せな世界
「おはよう、芳野」
そう声を掛けてきたのは、隣の席の西条 佑太郎だった。
「お、お、おはようっ」
椿が精一杯の明るい挨拶を返すと、佑太郎はにこりと笑った。
まもなくして佑太郎の座席の周りにはクラスメイト達が集まってきて、一気に賑やかになる。
(今日も、挨拶してくれた……!)
椿は嬉しさのあまり飛び上がりたい気分だった。
椿と西条 佑太郎とは家が近所で、幼なじみの関係であった。
大人しくいつもひとりでいる椿を何かと気に掛けてくれており、毎朝椿に挨拶をしてくれるのは佑太郎ただひとりだった。
佑太郎は昔からクラスの人気者だ。男女問わず友人がたくさんいる。
それなのに佑太郎は幼少の頃から変わらず、椿に優しく接してくれていた。
そんな佑太郎に、椿はひっそりと想いを寄せていた。
(私なんかが西条くんに釣り合わないってことくらい分かってはいるけれど、でも……)
これが好きという気持ちなのかは椿にははっきりとは分からない。
けれど、佑太郎ともっと一緒にいたいと思うし、たくさん話をしてみたいと思う。
(せめて友達になりたい…。気兼ねなくおしゃべりできるような、そんな友達に)
佑太郎と楽しそうに話すクラスメイトを横目で見ながら、椿は一限目の教科の準備を始めるのだった。