龍神様と私の幸せな世界
四人での朝食を終え、少し経った頃。
「おお、実によく似合っている…!」
「椿様、お綺麗ですよ」
「馬子にも衣裳ってやつだな」
巫女装束に着替えた椿は、照れくさそうに三人の前へとやってきた。
(巫女さんの服…!可愛い…)
大抵の普通の人は着ることのないものだ。当然椿も初めて着用する。
巫女装束に着替えた椿は、今日からこの神社で巫女として勤めることとなった。
まずはこの龍水神社にどのような参拝客が来、何を祈りにくるのかなど、この時代の神社情勢を把握しようと思ったのだ。
(何かこの神社を盛り上げられるようなヒントが得られるかもしれない…)
水司祢は椿が巫女としてこの神社の表に立つことに少し不満そうにしてはいたのだが、渋々了承してくれた。
椿はそんな水司祢の独占欲など露知らず、自分が誰かの役に立てるかもしれないということに、少し興奮気味であった。
「よ、よろしくお願いします…っ!」
神社の仕事について教えてくれるのは、黎と冥であった。
普段から二人が神社の境内の手入れをしているようであったが、やはり参拝客の力は強いらしく、その祈りの力が神社を保っているとのことであった。
「まあ、まずは境内の掃除でもしながら、参拝客のようすでも見てみたら?」
黎のなんとも投げやりな提案で、ひとまず椿は境内の掃き掃除を担当することになった。
昨日の降り積もった雪は昼が近くなるにつれて、あっという間に解けていき、至る所に土や葉っぱが散乱していた。
椿はそれを綺麗にしつつ、時折訪れる参拝客に目をやる。
人々を見ているうち、やはりここは椿が住んでいた時代ではないことを思い知らされる。
洋装の人々も少なからずいるが、和服の人がほとんどである。
色とりどりの着物を身に着けており、古き良き日本を思わせる。
女学生らしき少女達の集団も、やはり着物姿であった。
(ここは本当に昔の日本なんだ…)
重々承知していたとは言え、それをしみじみと感じた。
神様やお狐様と一緒に過ごしているという、信じがたい環境下であるものの、椿の心は現代にいた時よりもはるかに穏やかだった。
龍水神社ではあるが、やはり地元の人々からは慕われているようで、皆色々な願いを込めて祈っていく。
(やっぱりこの神社は、これからも守っていくべき場所なんだ)
椿はそう確信していた。
参拝客をちらりと見ながら、掃除を続ける椿の元に、ぱたぱたと境内を駆け上がってくる女性がいた。
齢は椿より少し年上くらいだろうか。息を切らしてやってきた女性は、巫女装束の椿を見て、こちらに駆け寄ってきた。
「もし。ちょっといいかしら?」
「あ、はいっ」