龍神様と私の幸せな世界
「あ…電気付いてる…」
椿が自宅の小さなアパートへと帰ってくると、椿が住む201号室に明かりが灯っていた。
普段この時間にいるのは椿だけのはずなのだが、母親が帰宅しているらしかった。
椿はきゅっと胸の前で手を握りしめる。
「大丈夫…きっといつでも神様が見守ってくださっているはず……」
椿はそう自分に言い聞かせるように呟いて、自宅の扉を開けた。
すると、玄関に立って待っていたらしい母親から怒号が飛んでくる。
「ちょっと椿!どこに行っていたの!!」
「…っ!ご、ごめんなさい……」
急に怒鳴られて、椿は咄嗟に謝罪の言葉を口にする。
「学校はとっくに終わっているわよね?どこほっつき歩いているのよ!!」
母親の怒鳴り声に身を縮こまらせながら、椿はただ謝ることしかできない。
「ご、ごめんなさい…あの、神社に寄っていて…」
「神社?またあのボロい神社に行ってたわけ?晩ご飯の支度もせずに?」
眉を吊り上げる母に、椿は怖くて顔を上げられなかった。
「ごめんなさい……」
椿がまた小さく謝ると、勢いよく頬に平手打ちが飛んできた。
ぱんっ!と乾いた音が家中に響き渡る。
「この薄鈍!私の子なのにどうしてこんなにものろまなの!?もういいから早く晩ご飯の支度をなさい!!」
「はい……」
実の母からの平手打ちに頬だけでなく、心がズキズキと痛んだ。
椿はそんな自身の気持ちに蓋をするように、慌てて台所に立つ。
しかし。
「あ……」
呆然と立ち尽くす椿に、母親はさらに不機嫌そうな声を漏らす。
「今度はなに!?」
「あ、えっと…今日の晩ご飯の食材がなくて……」
野菜置き場も、冷蔵庫も空っぽであった。
本来今日は買い出しをして帰るはずだったのだが、椿はそれをすっかり忘れてしまっていた。
母親は怒りで顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「早く買ってきなさい!!いつまで私を待たせるつもり!?いい加減にしてちょうだい!!もうどうしてこんなにも役立たずなの…!?」
頭を抱え始めてしまった母親から次なる怒号が飛んでくる前に、椿はそそくさと買い出しに出掛けることにした。