龍神様と私の幸せな世界
買い物を終え、スーパーを出たところで佑太郎やクラスメイトの男子達の集まりを見掛けた。ちょうどファミレスから出てきたところのようだ。
(あ…。これからカラオケに行くのかな…?)
椿に気が付くことのない佑太郎達は、何か笑い声を上げながら歩いて行く。
その会話が椿の耳に偶然届いてしまった。
「つーか佑太郎さぁ、なんでいつもあの女子に声掛けるわけ?」
「だれ?」
「隣の席のやつだよ」
「ああ、芳野か」
自分の名前が急に飛び出して来て驚きつつも、続きが気になった椿は佑太郎達の会話に耳を澄ませる。
「佑太郎、もしかして芳野のこと好きとか?」
「えーっ!?マジ!?」
ひゅーひゅーと冷やかす男子達。
椿は咄嗟に、これは聞いてはいけないことかも、とその場を離れようとしたが時すでに遅しである。
佑太郎からは聞いたこともないくらいに感情のこもっていない声が耳に届く。
「好きなわけないだろ、あんな陰キャ女。ただあんな根暗に話しかけてる優しい俺、かっこよくね?」
鼻で笑うような小馬鹿にした笑みを浮かべた佑太郎に、友人達も一際大きな声を上げる。
「うっわ!最低だこいつ!」
「芳野さん、もう佑太郎のこと好きかもよ?」
「は?知らねーよそんなこと。告られたらふつーに断るし。あんな根暗絶対無理だわ」
あの優しかった佑太郎とは思えない乱暴で冷たい言葉に、椿は耳を疑った。
「つーか、あの美人の先輩はどうしたんだよ?」
「ああ、一応ヤったけど、別にそれだけだわ」
最低だーとぎゃはぎゃは品なく笑う男子達の集団が遠ざかっていく。
椿は未だに信じられずに呆然としていた。
(今のは…本当に西条くん……?)
椿に接してくれていた優しい佑太郎は、影も形もなかった。
『好きなわけないだろ、あんな陰キャ女。ただあんな根暗に話しかけてる優しい俺、かっこよくね?』
確かに良く知る佑太郎の声で、先程聞いた言葉が頭の中で反芻される。
椿の視界がじわりと滲んだ。水の膜が張って、辺りが見えなくなる。
嘘だと思いたかった。
あの憧れていた佑太郎が、そんな酷いことを言うはずがない。
そう強く否定したいのに、先程の佑太郎の言葉が脳内をぐるぐると渦巻いて、それを許してくれなかった。
(……そんな風に、思ってたんだ……)
自分が好かれているとはさすがの椿も思っていなかったが、ここまで嫌われているとも思っていなかった。
優しいと思っていた佑太郎は、自分の評価のためだけに椿を気に掛けているふりをしているだけだったということが、椿の心に衝撃を与えた。
(…西条くんならもしかしたら、友達になってくれるんじゃないかって…思ってたのに
……。そんなわけ、ないのにね…)
裏切られたと思った。と同時に、椿なんかが佑太郎の世界に入ろうとしたのがいけなかったのだと、自分を卑下した。
(優しくされて、勝手に舞い上がっていただけだ……)
最初から友達になれるはずなんて、なかったのだ。