龍神様と私の幸せな世界
龍神様との出逢い
男性に抱きしめられながらも、椿は不思議に思っていた。
(知らない人のはずなのに、どうしてこんなにも落ち着くんだろう…?)
見知らぬ男性のはずなのだが、何故だか椿は知っているような、そんな感覚をおぼえた。
着物を着た和服の男性は、椿からゆっくりと身体を離した。
「すまない、苦しかったか?」
「え?あ、い、いえ…」
「そうか」
椿の顔を見て、何故か愛おしそうな表情を浮かべる男性。
「あの、…どこかで会ったことがありますでしょうか…?」
椿は恐る恐る質問を口にする。
しかし男性はゆるりと首を横に振った。
「こうしてちゃんと会うのは、今日が初めてだ」
「……?そう、ですか…?」
椿にはなんとなく知っているような感覚があったので、自分自身もそれを忘れているだけだと思ったのだが、どうやら初対面のようだった。
「あの、助けてくれてありがとうございました…。私、もう帰らないといけないので…、し、失礼しますっ」
椿はまた一礼して、くるっと身を翻した。
「あ、」
後ろで男性の引き止めるような声が聞こえた気がするが、一刻も早く自宅に帰らなくてはならない。
恐らく母親はかなりご立腹であると思われる。
しかしどんなに帰りたくないと思っていても、今の椿の居場所はそこしかなかった。
「早く、早く帰らなくちゃ…」
帰りたくないと思う心が時たま足をもつれさせたが、椿はようやく境内からの階段を降りきり、歩道へとやってきた。
しかしそこで違和感を感じた。
雪が積もっているせいなのか、夜なのに辺りが明るく感じるのもあるからなのか、なんとなく普段歩き馴れている道ではないような気がしたのだ。
「あれ……?この畑って、この前家を建てていなかったっけ…」