今夜君に、七年越しの愛を
「桜井さん、お話はよく伺っておりますよ」
「...え?」
「お会いできて良かったです。大変な努力家だと、ここに来る従業員の皆さん仰いますから」
「努力...?私が?」
「ええ。裏方でも何処であろうと、輝きを放つ人ってのはやはり分かるものですよ」
「そんな、...努力なんて私は」
柔和な笑みは本当に癒されるけど、その口から発せられた言葉は信じられない。
「──心地良い春の宵に乾杯、マスター」
ふと横から声が聞こえた。
淡いオレンジ色の酒が揺れるグラスから顔を上げると。
気づけば酔いが回っていて、視界はぼんやり。
なぜか手招きされて、なぜか言われるまま隣の席に移動したんだ、私は。
「はるか」
「ん〜...」
「はるか」
誰かが私を呼ぶ。
だれ、私を呼び捨てで......?
「───桜井さん、もうそろそろお水は如何ですか?」
「ん...要らない...」
ぽかぽか温かくて気分が良くて、ふわふわしてる。
お酒っていいねぇ。
忙しなく動き回る周りの気配で、店じまいかなあなんて考える。
「笹崎宏都。覚えてない?」
「ささざき...ひろと、......ん〜、わかんないな...」
「...ふ~ん。俺のこと忘れないって約束はどこいった?」
体がふわっと浮いて、...空を飛んでいる気分になった。