The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
「…食べ物を送っても、食べないでしょうし…。物を送っても捨ててしまうでしょうから…。感謝状に、商品券を添えて出しては如何でしょう」

しばし考えたルーシッドは、そんな真面目な返答をした。

実に無難だな。そして確実でもある。

ルーシッドの言うことは全くもって、もっともだ。

それなのに。

「…チョコをもらったのに、金を返すのは…随分と味気ないな」

デスソース仕込まれてたってのに、何を言ってるんだ?この馬鹿は。

「アドルファスはどう思う?」

「は?」

で、何で俺に話を振ってくるんだ。やめろよ。

「…酒を送ったらどうだ?ルレイアに捨てられたくないなら…その辺りが無難だろ」

一応、俺も真面目に答えた。

これ以上話を長引かせたくなかったのである。

「酒か…。ルレイアは酒は飲むんだろうか」

「飲むだろ…。確かあいつ、風俗店をやってたんだから」

高いワインでも送れば、ルレイアも飲むんじゃないか。

菓子だの化粧道具だの送るより余程良い。

「では、酒にしようか…。でも、あまり…ホワイトデーらしくないな…」

ホワイトデーらしくないって何だよ。

「なら、酒とクッキーにしよう。運が良ければ両方口にするだろうし、いずれにしても酒は飲んでくれることだろう」

「あっそ…」

「ルレイアが喜んでくれることを祈っててくれ」

お前からのプレゼントってだけで、ルレイアが喜ぶはずがないが。

祈るのは勝手なので、放っておくことにする。

「あの…これは可能性の一つなのですが」

ルーシッドが、控えめに挙手した。

「何だ?」

「ルレイア・ティシェリーに送るワインや、菓子に…毒物を仕込む、というのは…」

真剣な眼差しで、どうでしょう、とルーシッドはオルタンスに提言した。

…ま、その気持ちは分からなくもない。

引っ掛かってくれればめっけ物だが。

「…何故、そんなことをする?」

オルタンスは静かに、ルーシッドに聞き返した。

ルーシッドの提案は魅力的ではあるが…しかし、リスクの方が大きい。

あのルレイアを、そんな安直な方法で殺せるのなら…こんなに苦労していない。

それどころか、送られてきたものに毒が仕込まれていることがばれたら、敵対の意思ありとみなされ、『青薔薇連合会』と帝国騎士団の全面戦争に突入、なんてことにもなりかねないのだ。

余計なことはしない方が良い。

「…ルーシッド。チョコを仇で返すつもりか?」

「…は?」

オルタンスは何処までも真顔で、そう言った。

「俺にはそんなことは出来ない。チョコに罪はない」

「…」

…それが、ルレイアに冤罪押し付けてクビにした奴の台詞かよ。

全く、滑稽にもほどがある。

「…あぁ、付き合ってられねぇ…」

ルレイアなどという男と関わったから、これだ。

命が惜しければ、あの男と関り合いにならないことだ。

今更ながら、俺はしみじみとそれを思い知った。
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