The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
私がもし、正常な精神状態であったら…訪問者の目の奥の企みに気づき、決して扉を開けたりはしなかっただろう。

でも私はそのとき、身を焼くような背徳観と後ろめたさのせいで、冷静さを失っていた。

だから、開けてしまった。

「あの…ルヴィアさんに、何か」

「…お前、『青薔薇連合会』準幹部、ルヴィア・クランチェスカの関係者だな?」

「…え?」

先程とは打って変わって冷静で、そして冷たい声。

私はそのときようやく、目の前の男がルヴィアさんの同僚などではなく…私を殺しに来た暗殺者だと知った。

迂闊に扉を開けてしまった自分の愚かさを責める前に、逃げるのが先決だった。

私が反射的に身を引こうとする、その前に。

暗殺者が片手に持っていた、銀色のナイフが突き出された。

「…っ!!」

赤い血飛沫が、宙を舞った。

咄嗟に避けて、急所は回避したものの…避け損ねた左腕から、血が沁み出ていた。

私は切りつけられた左腕を押さえ、一歩、二歩と室内に後ずさった。

仕事をやり損なった暗殺者は、舌打ちをして、それから改めて仕事を完遂しようと、再び殺意の目を私に向けた。

…次は、殺られる。

しかし、私はむざむざ殺されるつもりはなかった。

ルヴィアさんと結婚してすぐ、彼は家の中に隠してある拳銃の場所を全て、私に教えてくれた。

自分がいないときにもしものことがあったら、これを自衛に使うように、と。

簡単にではあるが、拳銃の扱い方も教えてもらった。

殺されるくらいなら、躊躇いなく殺せ。急所を外そうなどとは考えるな。

懺悔なら、生きている間に出来るのだから。

ルヴィアさんは私にそう言った。私はマフィアの妻なのだ。人殺しを躊躇ったりはしない。

一瞬にして覚悟を決め、私は靴箱の裏に隠してあった拳銃を手に取った。

私が武器を手にしたのを見るや、暗殺者は急いで終わらせないと不味い、と思ったのだろう。

私の首もとめがけて、ナイフを振り上げた。

ナイフが身体に届く前に、震える手で拳銃の引き金を引こうとした、そのとき。

「っ!?」

ナイフを持った暗殺者の手が、がっちりと掴まれた。

…一体、何が起こったのか?

答えは、明白だった。

「…貴様…。誰に手を出そうとしてる?」

怒りと、殺意とが合わさった、酷く冷たい声。

ルヴィアさんが、そこに立っていた。
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