The previous night of the world revolution3〜L.D.〜

sideルアリス

─────…セトナ様も、薄々感づいていたようで。

俺が『青薔薇解放戦線』の現状について話しても、それほど驚かなかった。

「そうですか…」

「…」

…ただ、やはりショックは隠せていなかった。

それもそうだろう。

「…仕方ないことなのでしょうね。ルティス帝国は…祖国と比べて、あまりにも豊かです。こちらの方が良いと思うのは…当然のことです」

「…そのせいで、訓練も全く捗っていません。軍の士気は低迷する一方です」

戦意をなくした今の『青薔薇解放戦線』なんて、憲兵局にとっては敵ではない。

こんな有り様で…戦争なんて出来るものか。

「このままでは…帝国騎士団と『青薔薇連合会』にも見限られるでしょう」

「…」

戦争する気のない革命軍なんて、誰が養ってくれるものか。

追い出されておしまいだ。皆、忘れかけているのかもしれないが…俺達は、よそ者なのだから。

いつまでも、甘えている訳にはいかないのだ。

帝国騎士団や『青薔薇連合会』にとって、俺達を追い出すのは簡単なことだ。

皆、それを分かっているのだろうか?

「ルーシッド殿はともかく…ルレイア殿は、俺達に利用価値がないと見れば、すぐに切り捨てるでしょう」

何の容赦もなく、何の躊躇いもなく…あの人は、俺達を捨て石に出来る。

あの人のことだから、追い出すだけには飽き足らず、俺達を憲兵局を釣り出す餌として使うくらいのことは、してくるだろう。

そうなれば、俺達は…一人残らず、全滅だ。

ルレイア殿が、俺達の安否なんて考えてくれるはずがないからな。

それだけは、絶対に避けたい。

俺は自分の目的を忘れてはいない。俺は革命を起こし、憲兵局を倒して、箱庭帝国を救う。

一瞬たりとも、その使命を忘れたことはない。

セトナ様もそうだ。

ヴァルタもラシュナも、ユーレイリーもミルミルも、ヴィニアスだって、忘れてはいないはずだ。

でも、その他は。

その他の、末端の仲間達は。

彼らは忘れかけている。自分達が一体、何をしにここに来たのか。

ルティス帝国に住まわせてもらって、安穏とした生活をする為ではない。

「今一度…軍の士気を取り戻させないといけません。祖国には今も、憲兵局の圧政に苦しんでいる人がいるのだということを、全員に思い出させなくては」

だらだらとしている暇は、ないのだ。

いつまでもルティス帝国の厄介になっている訳にはいかない。

しかし。

「…あなたの言う通りです、ルアリスさん…。でも、どうかこれだけは…忘れないでください」

「…?」

「あなたは皆のことを、使命を忘れて自堕落を貪っていると思っているのでしょう。でも…彼らは今、人生で初めて…『安全に、安定した生活』を手に入れたのです」

…それは。

でも…。

「…仮初めの安定です」

本物の安定ではない。俺達は居候の身分なのだから。

「それでも彼らは今、初めて自由を味わっているのです…。生まれたときから、箱庭帝国で特権階級を得て生きていた私達には…図りかねない喜びだと思います」

…それを言われると、返す言葉に困る。

俺があの国で、恵まれた人間だったことは確かだから。

「だから甘えさせてやれ、とは言いません…。でもどうか、忘れないでください。彼らにだって…自由と幸せを謳歌する権利があったのです。…このルティス帝国の国民と同じように」

「…はい」

彼らは決して、自堕落な訳ではない。

ただ…手にした幸せを、手離したくないだけなのだ。

今までと同じような…苦しみの中に、帰りたくないだけ。

それなのに俺は…そんな彼らを、叱らなければならないのだ。
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