The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
はっとして、私は玄関まで迎えに行った。

アシスファルト帝国に来てからは、ルヴィアさんの帰りは早い。

喜んでいる場合じゃないと思うけど、これはやっぱり嬉しい。

昼間は使用人達が話し相手になってくれるけど、でもルヴィアさんがいるのとは訳が違う。

「お帰りなさい、ルヴィアさん」

「ただいま、フューニャ」

ぽふ、と抱きつくと、ルヴィアさんの匂いが伝わってきて、私はほっとした。

彼が傍にいるときは、私は大丈夫なんだ、って思える。

「傷は大丈夫か?」

アシスファルトに来てからというもの、ルヴィアさんは毎日、朝と晩に必ずそれを尋ねる。

傷、とはルティス帝国で例の暗殺者につけられたもののことだが…。

もう随分前の傷なのだから、ほとんど治っている。

それなのに、毎日不安げな面持ちでそれを尋ねてくる。

過保護も良いところだ。

「もう平気です」

「本当か?ちょっと見せてみろ」

私の自己申告は信用ならない、と言わんばかりにルヴィアさんは私の手を取り、袖を捲って自分で確認していた。

…やっぱり過保護。

大体、朝にも見せたじゃないか。

どうやら傷は大丈夫そうだと納得したらしく、ルヴィアさんはほっとしていた。

「夕飯出来てますよ、ルヴィアさん」

「またフューニャが作ったのか?」

「はい」

「お前な…。折角使用人がいるんだから、二人に任せれば良いものを」

「あら。私の料理は嫌いですか?」

二人の作ったものの方が美味しいと?

すると。

「フューニャのが一番だよ」

笑いながら、ルヴィアさんは私の頭にぽん、と手を置いて優しく撫でてくれた。

私は限りない幸福と共に、同じだけの罪悪感を感じた。

…私だけ、逃げた。

私だけ幸せになって。

その罪の意識が、また私を苦しめた。

「さぁ、じゃあ温かいうちに食べよう」

「はい」

私は不安を悟られないように踵を返し、ダイニングに向かった。

広々としたダイニングのテーブルに、私は作ったばかりの夕食を並べた。

幸いなことに、アシスファルト帝国の食文化はルティス帝国と似通っていて、食文化の違いに頭を悩まされることはなかった。

来たばかりの頃には、アシスファルト帝国の食事ってどうなんだろう、と不安になったものだが…なんのことはない。箱庭帝国よりずっと美味しい。

難点と言えば私がアシスファルト語を読めなくて、袋の裏に書かれている茹で時間や保存方法が分からないくらいだが。

それも、使用人に聞けば教えてもらえるから問題ない。

…アシスファルト語、覚えないといけないな。

どれくらいで覚えられるものなんだろう。

今度、二人に…アシスファルト語の本でも買ってきてもらおうか。

私がアシスファルト語を覚える頃、私は一体何処にいるんだろう。
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