The previous night of the world revolution3〜L.D.〜

sideルヴィア

──────…フューニャを連れて、アシスファルト帝国に亡命してから、しばらくたち。

俺は今まで海外出張の経験はあれど、異国に居を構えたことはなかった。

実を言うとアシスファルト語もそんなに堪能じゃないので、どうなることかと不安だったが。

現地の『青薔薇連合会』アシスファルト支部の公用語は一応ルティス語だし、そこ駐在する仲間達の助けもあって、なんとかやっていけている。

なんて…俺のことはどうでも良いのだ。

問題は、フューニャだ。

祖国があんなことになっている今、遥か遠く離れた異国の地で。

言葉もほとんど分からず、いつまた暗殺者が狙ってくるかと怯えながら生活しているフューニャが、どれだけ不安を抱えていることか。

フューニャは俺に心配をかけまいと、不安な様子は滅多に見せない。

弱音も溢さないし、もっと家にいて欲しい、とすがってくることもない。

必死に気丈に振る舞おうとするフューニャに、俺は心が痛んだ。

出来るだけ傍にいてやりたいのだが…アシスファルト支部での仕事もあるし、ルルシーさんから託された責任もあり、なかなかそうもいかない。

ルティス帝国にいたときよりは、毎日早めに帰れるようになったものの…。

アシスファルト支部の女性構成員を二人、使用人ということにしてフューニャの身辺警護に回しているので、その点は安心出来る。

彼女達は腕も立つし、いざというときはフューニャを俺の代わりに守ってくれるだろう。

でも…やっぱり不安だ。

彼女達に聞いてみたところ、俺がいない間、フューニャはよく一人で塞ぎ込んでしまっているということだ。

祖国のこと、残してきた仲間のことが心配なのだろう。

出来るだけフューニャを一人にしないでやってくれ、と彼女らに頼んだが…。

また暗殺者に狙われるかもしれないから、迂闊に外を出歩かせる訳にもいかない。

近辺を散歩するくらいならまだしも…一人で買い物になんて、絶対に行かせられない。

フューニャには申し訳ないが、もうしばらくは…家の中で我慢してもらうしかない。

だからこそ、俺が出来るだけ長く家にいられる時間を作ってやりたいのだが…。

フューニャに重い負担をかけてしまっているのが分かっているのに、それを何とかしてやれない自分が堪らなく不甲斐なかった。

そして。

その夜、フューニャはとうとう、満を持して俺に尋ねてきた。

「…ねぇ、ルヴィアさん」

「どうした?」

その暗い顔つきで、彼女が何を言いたいのかすぐに分かった。

「その…箱庭帝国の件は今…どうなってるんですか?」

「…」

…いつかは、聞いてくるだろうと思っていた。

ずっと気にしていながら、我慢していたのだろうから。

「大丈夫だよ、フューニャ。万事順調だ」

詳細を語れば、フューニャは余計に心配するだろう。

そして、どれほど心配しても…この国にいては、どうすることも出来ない。

だったら、知らない方が良い。

「…戦争は?もう始まったんですか…?『青薔薇解放戦線』は?」

フューニャはなおも、具体的に聞いてきた。

何処まで答えるべきか、考えながら話さなくては。

「戦争はまだ始まってない。『青薔薇解放戦線』の面々も皆無事だと聞いてるよ」

「…本当に?そうなんですか?」

「あぁ」

これは本当だ。まだ戦争準備の段階で、実際の戦闘行為は行われていない。

だから、フューニャの友人も…大丈夫なはずだ。

今は、まだ。

「…戦争は、いつ頃始まるんですか?」

フューニャの声は震えていた。

この質問には答える訳にはいかなかった。
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