The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
ルルシー宅から自宅までは、精々歩いて15分程度。

事件が起きたのは、その僅か15分の間だった。

違和感に気づいたのは、歩き始めて5分ほどたった頃。

「…んー…」

これは…あんまり宜しくない感じだなぁ。

俺はさりげなくコートのポケットに手を入れた。

これで良し…と。

次に、俺は自宅までの帰り道から逸れ、脇道に入った。

そのまま、更に5分ほど歩き続ける。

俺はほら、紳士的で平和主義の、優しい穏和な良い大人だから。

出来るだけ、乱暴なことは避けたいんだよな。

しかし。

「…」

…駄目そうだな。

脇道に逸れたのに、諦めてくれそうにない。

あれだな、やっぱり。人気者は辛いな。

女の子に見つめられるのなら、悪い気はしないのだけど…。

…仕方ない。俺は強くて勇敢な、勇ましい大人なので。

そんなに俺が気になるなら、相手してやろうじゃないか。

どうやら向こうも、それを望んでるようだし?

俺は更にそのまま歩き続け、人気もない、外灯も少ない路地裏に入った。

いかにもマフィアの取り引きに使ってそうな路地裏だ。

ここなら、心置きなくお喋りも出来るというものだ。

そこで足を止め、俺は闇に潜む者に声をかけた。

「…鬼ごっこは、そろそろ終わりにしませんか?」

ポケットに手を突っ込んだまま、俺は振り向いた。

「俺の熱烈なファンの方ですかね?サインならしてあげますから、自宅を探ろうとするの、やめてもらえません?」

まぁ、別に自宅を探ろうとしてる訳じゃないんだろうけど。

ストーカーに家なんか知られたら、悲惨だよな。

「…それとも、かくれんぼが好きなんですか?」

俺は優しい大人なので、かくれんぼ好きの子供にも、ちゃんと付き合ってあげるつもりだ。

ちゃんと…見つけて引っ張り出して、ぶん殴ってやる。

すると。

「…『青薔薇連合会』幹部、ルレイア・ティシェリーだな?」

闇に紛れていた追跡者が、ゆらり、と姿を現した。

その姿を見て、俺は思わずにやりとしてしまった。

「へぇ…」

なかなか、粋な格好してるじゃないか。

俺と同じ、黒髪に長い黒コート。

ただ俺と違うのは顔に仮面をつけていることだけだ。

「仮面舞踏会にでも招かれたかのような格好ですね。…しかし、全身真っ黒とか…魔女みたいですね」

「…」

あれ?何でスルー?

俺は思ったことを言っただけなのだが。まぁ良い。

「仮面舞踏会の会場はこっちじゃありませんよ。良ければ、タクシーでも呼んであげましょうか」

「…その必要はない」

だろうね。

仮面舞踏会の会場は…ここなのだから。

「俺に何か用ですか?」

さっきも言ったが、サインなら書いてやるぞ。

サインくらいで帰ってくれるなら、十枚くらい書いても良い。

「あぁ」

「何の用で?」

「…」

ゆらり、と影が動いた。

次の瞬間。

仮面男の手に、銀色のナイフが光った。
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