The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
当然ながら、俺はそれを予測していた。

仮面男の短剣が俺の喉元に触れる前に、右袖に仕込んだナイフで受け止めた。

同時に俺は、ポケットに突っ込んでいた左手で、スマートフォンの画面を叩いた。

準備…しておいて正解だったな。

これは、ちょっと不味いかもしれない。

どうやら仮面男の方も、受け止められるのは予想していたようで。

顔色一つ変えず、更にナイフを振り回した。

「…あはは」

俺は、思わず微笑んでしまった。

この男、後ろをつけてきてるときから、ずっと思ってたけど…只者じゃない。

動きが速い。おまけに…ナイフ捌きも正確だ。

帝国騎士団時代から、俺はスピードだけはオルタンスにもひけを取らなかった。

その俺の動きに、ついてきているというだけでも大したもの。

カセイやルアリスなんかとは、比べ物にならない。

最低でも、帝国騎士団の隊長連…いや、この狡猾な動きは…まるで、自分のコピーを相手にしているような気分になる。

これほどの逸材に出会えるなんて。

って言うか、この国にこれほどの人間が、まだいるなんて。

…凄いなぁ。天才って奴か?

「うふふ…濡れてきてしまいそうですね」

俺に無双させてくれないなんて、やってくれるじゃないか。

面白い。

おまけに、ただ強いだけじゃない。

強いだけならオルタンスやアドルファスでも充分だ。あんな奴らには嫌悪感しか沸かないが、でも…彼は違う。

彼は、俺と同じ側の人間だ。

こちら側の人間で…こんなに俺を楽しませてくれる人がいるなんて。

「あなた、随分強いですね?何処で習ったんです?それ」

是非とも、俺も教わりたいものだ。

「…」

でも、彼は答えてはくれなかった。残念だ。

「あなたみたいな人に、ずっと見られてたなんて…嬉しいですね。こんな風に俺と遊んでくれる人は今まで一人もいませんでしたよ」

俺の相手になってくれる人って、殺意で目が血走ってるか、恐怖で顔がひきつってるかのどちらかだから。

こんな風に、真っ直ぐに俺の目を見つめながら戦ってくれる人なんて、いない。

俺は思わず、口許を歪めて笑いながら戦っていた。

彼はどうだろう?俺と同じ気持ちでいてくれると良いのだが。

この子、俺に似てるから…多分。

あんまり楽しくて、あんまり興奮して、俺は一歩踏み込み、彼の右腕を掴んで引き寄せた。

「ルルシー以外で、俺をこんなに興奮させてくれたのはあなたが初めてですよ」

耳元でそう囁き、俺は自分のナイフを捨てた。

ついつい、興奮が収まらなくて。

そのまま、俺は彼の唇にキスをした。

知ってると思うけど…俺、男でも行けちゃう口だから。

さすがにそれは予想していなかったようで。

そのとき初めて、彼の顔が驚きに変わった。

「うふふ…。楽しいですね?」

さぁ、第二ラウンドと行こうか。
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