The previous night of the world revolution3〜L.D.〜

sideアイズレンシア

─────…と、いう経緯で。

私はその日、ルリシヤを呼びつけて来てもらい、彼に自分の仕事を教えた。

…と言っても、私の仕事は基本的にデスク業務がメインなので、ルリシヤにとってはつまらないに違いない。

「で、これがうちの取引先の一覧。次にこっちが、うちの下部組織の一覧ね」

「あぁ」

「あとこっち、武器の買い付け先の一覧。マフィアの機密情報だから、取り扱いには注意してね」

…そういう文書をルリシヤに渡しちゃう辺り、私はルリシヤのことを信用してるんだろうけど。

ルルシーには悪いが、私はこのルリシヤが疑わしい人物だとは思えないんだよな。

何かは抱えてるんだろうけど、でも怪しいものではない。

…と、思うのは私が甘ちゃんだからなのかなぁ。

ともかく、ルリシヤが優秀な人間であるという評価はルルシーが正しかった。

実際問題ルリシヤは、文句なく優秀であった。

成程、ルルシーが疑う訳だ。

こんなに優秀過ぎると、何か企んでるんじゃないかと勘繰ってしまうのも無理はない。

でもねぇ、ルリシヤほど優秀な人間が、本当に何か企んでるんだとしたら。

無駄に優秀なことを見せつけるなんて、そんな怪しまれるようなこと、わざわざしないと思うんだよなぁ。

本当に怪しまれたくないなら、ちょっと手を抜いて、不器用に見せた方が良いと思うんだよね。

それなのにそれだけ完璧にこなしてみせるってことは…私達を騙す意思はないものと思って良い。

…ってことだと思うんだよ。私は。

まぁルルシーには、ルレイアを撃たれた恨みがあるから。

ルレイアを撃った人間というだけで、ルルシーにとっては敵以外の何者でもないのだろう。

ルルシーの気持ちも、分からないことはない。

だからこそ、ちょっと鎌をかけてみようと思った。

「…それにしても、ルリシヤ。君は物覚えが良いね」

「そうか?」

「いやいや、君は随分理解力に優れてるよ。アリューシャと比べると雲泥の差だね」

ごめんね、アリューシャ。

別にアリューシャを蔑んでいるつもりはない。彼の長所は頭の良し悪しではない。

「『青薔薇連合会』に限らず…マフィアに入るのは、ちゃんとした教育を受けていない人間が多いからね。君みたいに、仕事をすぐ覚えられる人間は少数派だよ」

「…」

ルレイアみたいな例外もいるけど、彼は本当に特別だ。

大抵がアリューシャレベル。ある程度読み書きが出来るぶん、アリューシャは割と優秀なくらいだ。

話しかけられても、まともに返事も出来ないような子も少なくはない。

それに、ルリシヤの字。

先程私は、「この書類、一通りチェック終わったら、ここの署名欄にサインしてくれる?」とさりげなく名前を書いてもらって、彼の字を見たのだが。

非常に綺麗な字だった。これほど綺麗な字を書ける人間は、アシュトーリアさんか…あるいはルレイアくらい。

私もある程度練習して、綺麗に書けるようにはなってきたけど。

やっぱり、アリューシャや他の構成員達みたいな、貧民街や孤児出身の者達が書く字とは比べ物にならない。

私自身がそうだったからよく分かる。

あの綺麗な字は…幼い頃から教育を受けてきた者でないと書けない。

私は彼の書いた字を見て、それを確信した。

私が気づいているのだから、ルレイアも気づいているに違いない。

つまりルリシヤは…少なくとも中流階級より上の生まれなのだ。

そう思って間違いはないだろう。

「君ほど飲み込みが早い人は珍しいよ。前の…『セント・ニュクス』でも同じような仕事をしてたの?」

「…」

…おっと。ちょっと詮索が過ぎたかな。

黙らせてしまっては、本末転倒というものだ。
< 421 / 791 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop