The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
いよいよ切羽詰まった父は、周りから宥めすかされ、ようやく渋々不妊治療を受け入れた。

とはいえその頃には父も既に高齢。

金に任せてあれこれやって、結果生まれたのは俺と、それから九歳年上の兄だけ。

父は、自分が年老いてから、ようやく念願の子供を得たのだった。

父としては、酷く焦ったに違いない。

自分の野望を叶える為には、たった二人の息子に賭けるしかなくなったのだから。

父はまず、最初に生まれた兄に対して、徹底的に英才教育を施した。

兄が生まれたときは当然俺はいない訳で、父にとっては当時、自分の唯一の希望だった。

何がなんでも、兄を天才にしなくてはならない。

いかに育て方が良かろうと、凡人の子供を天才にすることは出来ないと、俺は思うのだが。

老い先も短くなった父は、とにかく必死だった。狂ってしまった自分の人生を、息子を通して取り戻そうとしていたのだ。

兄は、幼い頃から帝国騎士官学校に入る為に徹底した教育を受けた。

お前は特別な人間だ、お前はクレマティス家の唯一の希望だと、耳元で囁き続けながら育てた訳だ。

ルレイアなら分かると思うが、こういうことは貴族の家だったら、何処でもやっていることだ。

ルレイアだって、少なからず覚えがあるだろう。

でも我が家の場合は…常軌を逸していた。

クレマティス家には、次がなかったのだ。

次に子供がいつ生まれるのか分からない。もしかしたらもう生まれないかもしれない。

となると、何がなんでも兄を天才にするしかなかったのだ。

そんな経緯で、兄は非常に厳しい教育を受けた。潰れてしまうほどのプレッシャーを与えられ、父のくそったれな見栄とプライドに雁字搦めにされながら育った。

こんな風に育てられれば、そりゃ誰だって歪むだろう。

更に悪いことに、兄はそんな過剰なまでの父の期待に応えられるほど優秀ではなかった。

兄はここ最近のクレマティス家の人間と同じく、いくら鍛えても凡人の域を出なかった。

残念ながら、兄は父の才能を受け継いではいなかったのだ。

だから余計に父は躍起になった。凡人に過ぎない兄を、何とか天才にしようと無理なことを兄に強いた。

そんなことをするから、ますます、兄は歪んでいく一方だった。

それでもあの頃は、兄は少なくとも大事にされていた。たった一人の息子として、将来を期待されていた。皆の期待を一身に受けていた。

だからこそ、兄も道を踏み外さずに済んだのだ。

それなのに。

兄が生まれて九年がたったとき…俺が生まれてしまった。

クレマティス家が崩壊したのは、全てそれが原因であった。
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