The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
気の毒なのは兄だ。彼は何も悪いことなんてしていない。

それなのに、大人から勝手に期待され、勝手に失望されたのだ。

ついこの間まで、周囲の期待を集めていたのは自分だったのに。

今まで眼中になかった弟が、その全てを自分から奪っていった。

おまけに俺は、兄にはないものを持っていた。

生まれながらの才能という、兄がどんなに頑張っても手に入れられないものを。

兄にとっては、理不尽以外の何物でもなかったはずだ。

騎士官学校にも行けず、屋敷の片隅で肩身の狭い思いをしながら。

自分に代わって皆の期待を一身に得て、おまけにその期待に応える俺を…じっと睨んでいることしか出来なかった。

兄が歪むのは当然のことだった。俺を憎むのも当然のことだった。

そしてその憎しみは、俺が大きくなるにつれて…段々と増大していった。

自分が父に愛されないのも。周りに愛されないのも。

自分に才能がないのも、全ては弟のせい。

兄はそう思っていたのだ。

今までずっと、歪んだ育てられ方をしていた弊害だった。

なまじ期待されて、特別だ、天才になるんだと言い聞かせられていたものだから。

自分が特別であること、いずれ父の跡を継ぐことは、兄にとって生きる意味そのものになっていた。

これは断じて、兄の責任ではない。兄にそのような洗脳教育を施した、父のせいだった。

そして父は、その責任を取ることもなく…あっさりと兄を捨て、俺に鞍替えしたのだ。

理不尽極まりない。

兄は自分が捨てられた悲しみと苦しみを全て、俺への憎しみに置き換えた。

そうしなければ、自分を保つことが出来なかったのだ。

俺は今でも、兄のことが気の毒で仕方ない。

あんなことをされたのに…俺が兄を憎む気になれないのは、それが原因だった。

…俺もまた、兄のように凡人であったなら。

クレマティス家が崩壊することはなかっただろう。あんなことにもならなかったはずなのだ。
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