The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
兄は俺を憎んでいた。幼い頃から、憎しみを溜め続けていた。

けれども、だからといって…兄が俺に何か出来る訳ではなかった。

それはそうだ。俺は父が大事に大事に囲っているのだから、兄にどうにか出来るはずがない。

そのまま月日は流れ、今度は俺に受験の番が来た。

俺も当然、兄と同じように帝国騎士官学校を受けさせられた。

兄が落ちてしまったその入学試験に、俺は無事に通った。

そう。合格してしまったのだ。

そのときのクレマティス家がどうなったか。酷く滑稽なことになった。

父はその頃、老齢の為に病気をして、床に臥せっていることが多くなっていた。

それでも、俺が帝国騎士官学校に合格したことを聞いて、父は飛び上がらんばかりに喜んだ。

あの日、クレマティス家は正にお祭り騒ぎだった。

父は踊り出さんばかりに狂喜していた。ようやく、野望を叶えたのだから。

自分の子供を、帝国騎士官学校に入れるという野望が。

帝国騎士官学校に入れば、あとはもうエスカレーターだ。

卒業すれば、帝国騎士団でそれなりの地位が約束されている。

父は涙を流して喜んだ。父だけではない、親族達も皆喜んだ。

クレマティス家は、これでやっと再興出来る。

もう他の貴族に後ろ指を差されることもない。笑われることもない。

あわよくば俺を帝国騎士団の隊長に出来れば、クレマティス家は帝国騎士団隊長を輩出し、名誉を回復することが出来る。

父が喜ぶのも当然だった。

お祝いモード一色の中で、兄だけが部屋の片隅から、物凄い目で俺を睨んでいた。

俺はその目を、未だに忘れられない。

自分が手に出来なかった栄光を手にした弟を、兄はどんな風に思っていたのだろう。

あのときに、兄の気持ちは決まったのかもしれない。

何にせよ、クレマティス家が上手く行っていたのは、そのときまでだった。








…そんな日常が崩れたきっかけは、父の死だった。





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