The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
父は、俺が帝国騎士官学校に入学する直前に亡くなった。

患っていた病気が、悪くなったのだという。

14にもならないうちに父親が亡くなったというのに、俺は大して悲しいとは思わなかった。

涙も出なかった。

俺は母親の顔と名前を知らない。知っているのは父親だけだ。

父自身も、俺が誰に生ませた子なのか知らないはずだ。

だって、全くの無関心だったのだから。

俺が生まれたとき、父には数え切れないくらいの妾がいた。

父にとって大事なのは、誰が生んだかなどではない。

ただ、自分の血を継いだ子供でさえあれば、それで良かったのだ。

だから俺は母親については何も知らない。小さい頃はそれでも、やっぱり知りたいと思ったし、尋ねてみたこともある。

でも、誰も教えてはくれなかった。

知っていて教えなかったのか、それとも彼らも知らなかったのか。

俺も、母親が何者なのかについてはそれほど詳しくは詮索しなかった。

そんなことより、日々の訓練が忙しかったから。

余計なことを考える暇がなかった。

だから父親は、俺にとって唯一の親だった。

それなのに、亡くなったとき…悲しいとは思わなかった。それどころか、少しほっとしている自分がいた。

過剰なまでに俺に期待を寄せる父のことを、無意識に鬱陶しく思っていたのかもしれない。

これでもう、俺の一挙一動にいちいち口を挟んでくる人はいなくなった。

過剰な期待を押し付けてくる人もいなくなった。

父には期待されていたし、大事にもされていた。でも、愛されていた覚えはない。

だから悲しくなかった。

でも、安心していられたのはほんの僅かな期間だけだった。

父が亡くなったと聞くや、兄は酷く喜んでいた。

態度に出していた訳ではない。親戚達の手前、神妙な顔つきをしていたものの…目は狂喜に染まっていた。

兄は、実の父親の死を喜んだ。

残酷だと思うかもしれない。でも、俺は兄を責める気にはなれなかった。

父から受けた仕打ちを思えば、兄が彼の死を喜ぶのは当然だった。

今際の際で、父が最期まで気にしていたのは俺のことだけだった。

兄のことなんて、一言も言わなかった。存在そのものも忘れていたのだろう。
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