The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
さて、クレマティス家の当主であった父が亡くなれば。

次の当主が、家を納めなければならない。

家督相続を巡る争いは、ルティス帝国貴族の避けられない運命のようなものだ。

貴族の家なら、何処も少なからず経験しているはずだ。

ルレイアも、覚えがあるんじゃないか?

ルレイアがあのまま帝国騎士団にいたら、ウィスタリアの家の家督問題はややこしくなっていただろうな。ルレイアの家は、姉がルレイア並みに優秀だということだから。

それはともかく、家督争いはクレマティス家でも問題だった。

基本的には、家督を継ぐのは長男だ。

つまり、兄だ。

けれど父は生前、周囲の人間に、弟である俺に家督を譲ると話していた。

正式に書面に残してはいなかったものの、父が俺に家督を譲るつもりでいることは、クレマティス家の人間なら使用人でも知っていた。

父は兄の存在を忘れていたのだから、それも当然だ。

兄は一応帝国騎士団には入ったものの、やはり泣かず飛ばずだった。何年も平騎士をやっていた。自分より年下の隊長に顎で使われる立場だった。

無能な兄より、帝国騎士官学校に入学し、将来を約束された弟に家督を譲りたい。

父はずっと、そう言っていた。

言うだけじゃなくて、ちゃんとそれを書面に残していれば良かったものを。

父は無能な兄の存在を忘れ、いない者として扱っていたから、書面に残す必要はないと思っていたのだ。

当然のように、俺が家を継ぐものだと思い込んでいた。

自分が死んだ後に、まさか無能な兄が自分の家督相続権を主張し始めるなんて、思ってもみなかったのだろう。

父の贔屓があんなにあからさまだったから、当然俺達の兄弟仲は最悪だった。

俺は兄のことを嫌いではなかったし、仲良く出来るものならしたいと思っていた。

だが、兄が俺と仲良くするはずがなかった。

当然ながら、日常で兄と喋ることなんてなかったし、向こうから話しかけてくることは全くなかった。

従って俺の方から話しかけることもなかった。

まぁ、貴族の兄弟と言うのは何処もそんなものだ。家督相続の問題がある以上、貴族の兄弟で仲が良いなんてことは滅多にない。

ルレイアの家もそうじゃなかったか?お前のところは姉も自分も優秀だから、余計にいがみ合っていたんじゃないか?

そうでもなかったか?羨ましいな。

ともかく俺と兄は、物凄く仲が悪かった。だから父が亡くなったとき…あんなことになったのだ。
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