The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
親族は皆、俺が家督を継ぐものと思っていた。

俺自身も、自分が家督を継がなければならないんだろうなと思っていた。

別に家を継ぎたかった訳じゃない。ウィスタリア家みたいな上流貴族の家という訳でもないし、父ほど家の名に誇りもなかった。

でも、昔から父に「お前が家を継ぐんだ」と言い聞かされていたから、そんなもんなんだろうなと思っていただけで。

それなのに。

父が亡くなった途端に、兄は自分の家督相続権を主張し始めた。

これは親族にとっても、俺にとっても意外なことだった。

天国にいるのか地獄にいるのかは知らないが、死んだ父も意外だったことだろう。

父が亡くなる前には、兄は最早家の中では空気のような存在になっていた。

いてもいなくても、誰も気づかないほどに。

そんな兄が、まさか父の死後息を吹き返したかのように家督相続権を主張するなんて。

兄は自分が長男であることを理由に、家督を継ぐのは自分だと言い始めた。

それに、弟である俺はまだ未成年であり、家督を継ぐには幼過ぎるとも。

また、父が遺言を書面に残していないことも災いした。

父が俺に家督を譲ると言ったのはあくまで口約束であり、拘束力はない。

しかも父は晩年、老衰の為認知症気味で、その口約束にも信憑性がない。

それが兄の主張だった。

一見もっともらしいことを言っているが、そんな兄の主張を、親族は白い目で聞いていた。

どれほど理由をつけて自分を正当化しようと、兄より弟の方が優秀であることに変わりはない。

確かに父は晩年認知症気味ではあったけど、正気であったとしても俺に家督を譲るという考えは同じだったはず。

そんなことは、疑いようもなかった。

だから兄が何を言おうと、苦しい言い訳にしか聞こえなかった。

俺も、父の死後何とか自分の立場を浮上させようと必死になっている兄を見て、少し憐れにもなった。

でも、それも無理はなかった。兄は俺が生まれてからずっと、ないものとして扱われてきたのだ。

ここで家督まで俺に盗られてしまったら、兄には何もなくなってしまう。

何がなんでも、家督だけは俺に譲りたくなかったのだ。
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