The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
俺は、兄の言っていることが信じられなかった。

父が死んだ後、兄は未成年だった俺の法的後見人になっていた。

だから兄の言う通り、兄は俺を好きに出来るのだ。

更に悪いことに、俺は帝国騎士官学校に合格はしていたし、入学金は払っていたけど、まだ入学手続きは完了していなかった。

正式に入学が決定し、学校に席を置くのは新学期になってからだったのだ。

普通こんな時期に入学辞退なんて、しかも天下の帝国騎士官学校で、合格者が入学辞退なんて有り得ないことだった。

でも、今ならまだ、無理を言えば入学辞退は可能だった。

だって、まだ入学手続きは完了していないのだから。

例え学校側が引き留めようが、初年度の授業料を払わなければ、入学は出来ない。

兄はクレマティス家の財産を取り仕切る権利を持っていた。その兄が、入学を認めないと言えばどうなるか。

必然的に、俺は帝国騎士官学校には入学出来ない。

いくら合格していようとも。

ちなみにだが、ルレイアとルルシーは知っていることだと思うが、基本的に帝国騎士官学校には奨学金制度はない。

入学者の大半が貴族の子女であるあの学校には、そんなものは必要ないからだ。

限りなく優秀で、かつそれなりに裕福でないと入れない学校。

それが、帝国騎士官学校だった。

だから、兄が俺を学校には入れないと言えば、俺はそれに従うしかなかった。

でもまさか、そんな陰湿なことをするなんて。

いくら俺が気に入らないからといって。

それに、今、何て言った?

俺から貴族としての権利を取り上げて、平民にする、だって?

この人は、正気か?

「兄さん…本気なんですか?」

「あぁ、本気だ。俺は本気だ。お前なんて家から追い出してやる。あはは!ざまぁみろ!今まで散々優遇されてきたんだからな。少しは俺の気持ちを思い知れ!良い気味だ!」

「…」

これも、兄にとっては難しいことではなかった。

兄は俺の後見人で、そしてクレマティス家の正式な当主だ。

適当に理由をつけて、俺から家の名前を取り上げてクレマティス家から追い出すことは、不可能ではなかった。

勘当する、ということだ。

一般市民にとっては、言うは易し、行うは難し。

でも貴族にとっては、言うは易し、行うのも易しなのだ。

実際、貴族の家ではこういうことはそれほど珍しくはない。

ルレイアが良い例だ。

彼だって、ウィスタリア家に勘当されて今ここにいる。

貴族の人間が何か不祥事を働いた場合、家名が汚れるのを恐れて、当主はその者から家の名前を取り上げて、貴族としての権利を返還させる。

そうすることで、失った名誉を取り戻そうとするのだ。

だから兄にとっても、俺から貴族権を取り上げるのはそれほど難しくなかった。

親族からは反対されるだろうが…兄の言う通り、当主は兄なのだ。

決定権は兄にある。いくら、誰が反対しようとも。

兄が、好き勝手に出来るのだ。

でも、好き勝手出来るからって、まさか本気でそんなことを。

まともな精神で出来ることじゃない。

いくら憎んでいるからって、未成年の弟を家の外を放り出すなんて。

俺は怒りよりまず、兄が憐れだった。そうまでしないと自分の価値を保てない兄が、とても憐れだった。

ざまぁみろ、ざまぁみろと虚しい高笑いを続ける兄の姿が、今でも忘れられない。
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