The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
その彼が、俺に尋ねた。

「名前は?何て言うんだ?」

「…ルリシヤ」

「名字は?」

「…」

答えることは出来なかった。俺には最早、名乗るべき家の名前がない。

俺が黙っているのを見て、彼は察したようだった。

「そっか。ここにいる奴には珍しくねぇよ。野暮なこと聞いて悪かったな」

「いや…」

「俺はグリーシュ。俺にも名字はないんだ。お前と同じだな」

彼はそう言って、よっ、と梯子を使わずに上段から飛び降りた。

どすん、と着地し、彼…グリーシュは俺と向かい合った。

「ルリシヤ、お前、歳は?」

「…13歳」

「おっ、俺と一緒じゃないか。この部屋にいるのはガキが多くてな、俺が一番年長だったから…。同い年の奴が来てくれて嬉しいよ」

そうですか。

グリーシュは気さくに俺の横に座った。

貴族として、礼節を重んじるようにと育てられた俺にとっては、かなり馴れ馴れしい男だったが。

不思議と、嫌な気はしなかった。

「ルリシヤ。お前何処から来たんだ?」

「…帝都」

まさか元貴族ですとは言えないので、俺は適当に言葉を濁した。

間違ってはいない。出身も育ちも帝都だ。

「じゃあ、都会出身なんだな…。それで、ルリシヤはカードはやるのか?」

「…」

気さくに話しかけてきたと思ったら、目的はそれか。

要するに、賭け事のお仲間が欲しかったと。

なんだか、とても幻滅である。

「…俺は賭け事はやらない」

「何だよ、頭堅いんだな…。やらないじゃなくて、やったことないだけだろ?」

「やる気がないんだよ」

あんな、勝つか負けるか分からないような遊びは。

俺は今まで、ずっと帝国騎士になる為に剣術を腕を磨いていた。剣の試合では、時の運なんて関係ない。いつだって強い奴が勝ち、弱い者が負ける。

賭け事の世界のように、運が物を言う世界なんて、俺の性に合わない。

あんなものに金を賭ける人間の気が知れない。

「自信がないのか?」

「煽っても無駄だぞ。俺は運が悪いから、賭け事には向いてないんだ」

そう。俺は昔から運がない。

運がないから、今ここにいるのだ。

孤児院にいる奴らもそう。ここにいる時点で、運なんて最低レベルなのだ。それなのに、どうして賭け事なんかに興じるのか。

「何だ。お前、賭け事を運勝負だと思ってるのか?甘いな」

「…何?」

「俺がやってるのは運勝負じゃねぇよ。まぁ、一回だけついてきてみろよ。さっき野暮なこと聞いちまったからな…お詫びに、お前の負け分は負担してやるから」

「え、ちょっ…」

俺はグリーシュに腕を引っ張られるままに、部屋の外に連れていかれた。
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