The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
「…ちっ」

二度目の舌打ちが出てしまった。

これは、見た目以上に厄介だぞ。

ここまで鮮やかに正体を見破られて、よくもまぁ笑えるものだ。

怯えるなり、必死に言い訳するなら可愛いげがあるものを。

言いたくはないが、良くも悪くもこいつは、俺と同じタイプだ。

扱いにくいことこの上ない。

「あなた、名前は?」

ともあれ、まずは名前を聞いておこうじゃないか。

「先程そちらの男に名乗った通りだ。ヴァルタ・エリニア」

「ヴァルタ、ねぇ…」

それが本名なのか、否か。

「さっき俺にもそう名乗ったぞ」

と、ルルシー。

「ふーん…」

信用出来ないな。いつぞやのカセイだって、三つくらい名前を使い分けてたからな。

俺も人のことは言えないがな。

「心配しなくても本名だ。こそこそ偽名を使うような、回りくどい真似はしない」

ヴァルタは俺の心境を見透かしたように言った。

…あぁ、本当やりにくい。

オルタンスとは、また違ったタイプの面倒臭さだ。

「それは結構。ということは…自分が箱庭帝国の人間だと認める訳ですね?」

「あぁ、認めよう」

何で上から目線なんだ。苛つく。

俺は自分が偉そうにするのは大好きだが、他人に偉そうにされるのは大嫌いなのだ。

「で?箱庭帝国の裏切り者が…俺に何の用です?」

今ここにいるということは、こいつは間違いなく脱国者だ。

あの国では、国民が国外に自由に渡航することは出来ないのだから。

おまけに、密やかに隠れて暮らすのではなく、『青薔薇連合会』に堂々と入ってきやがった。

ということは、あのルルシーのところの準幹部の嫁とは話が違う。

何か良からぬ目的があって…俺達に挑みに来たのだ。

「…分かってると思いますが、我々に危害を加えようとして、生きて帰れるとは…思っちゃいませんね?」

俺がそっと拳銃に手を伸ばすと、ルルシーも同時に臨戦態勢に入った。

言っておくが、俺達が二人揃えば、この世の誰にも負けないぞ。

オルタンスでもぶっ殺してやれる。

この女がどれほどの実力者かは知らないが…俺達二人を相手にして、かすり傷の一つでもつけられれば良いがな。

しかし。

「私は戦いに来たのではない」

ヴァルタは怯えもせず、応戦する様子も見せず、淡々とそう答えた。
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