The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
近頃のクランチェスカ家は、平和そのものである。

「ルヴィアさん、お紅茶、飲みますか?」

嫁のフューニャが、ひょこっ、と顔を覗かせてそう尋ねた。

「ん、そうだな。俺が淹れよう」

「私が淹れるから、あなたは座っていれば良いんです」

「あ…はい」

立ち上がりかけたのに、渋々と座り直す。

最近、俺はちっとも台所に立たせてもらえない。

フューニャの里帰り以降はめっきりである。

曰く、「あなたに台所を任せると、廃墟みたいにするので駄目です」とのこと。

里帰りのとき、家の中を魔境にしてしまったことを根に持っているようである。

違うんだよ…。それはフューニャがいなかったからであって…。

何だかんだとフューニャが甘やかしてくれる為、俺の家事能力は下がる一方である。

練習とかした方が良いのかな…と考えていると。

「出来ましたよ」

「あ…。ありがとう」

フューニャが淹れてくれた熱い紅茶に、ミルクを入れて飲む。

美味い。

俺が淹れると濁った渋い味にしかならないのに、フューニャが淹れると何でこんなにまろやかになるのかなぁ。

家事能力の格差を感じ、密かにちょっとショックを受けた。

「…」

「…ん?」

ティーカップをソーサーに置き、ふと視線を感じて横を見ると。

俺の隣にちょこんと座ったフューニャが、こちらをじーっと見つめていた。

…他の人なら、こいつ、何ガン見してんだ?と思うところだろうが。

俺には分かる。

「よしよし、良い子、良い子」

髪を撫でてやると、やはり正解だったようで、フューニャは満足そうにくっついてぐりぐりしてきた。可愛い。

最近は『セント・ニュクス』との抗争のせいで忙しく、ちっともフューニャを構ってやれなかったからな。

先日行きなりルルシーさんに、「『セント・ニュクス』はしばらく無視することにした」と言われたときは、度肝を抜かれたが。

どうやらその策を考えたのはルレイアさんだそうだから、多分心配要らない。

そんな訳で暇になった俺は、こうして家に帰って、フューニャと一緒に過ごす時間を増やした。
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