The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
口では何も言わなかったが、ずっと寂しかったのだろう。毎日定時で帰るようになってからというもの、こうして度々甘えてくる。

当然ながら、俺は『セント・ニュクス』との抗争のことは、フューニャには話していない。

実は敵組織と抗争状態で、しかもその敵は化学兵器なんて物騒なものを使ってきて。

挙げ句その化学兵器が使われた現場に俺もいたんだよ。運良く後方待機だったから大丈夫だったけどね。なんて。

言えば、目を剥いて大騒ぎするに決まってる。

そして余計な心配をかけるだけ。

何かあったんですかと聞かれても、ちょっと仕事が立て込んでて、としか言わない。

まぁでも…フューニャは察しの良い子だから…何かヤバいことになってると、気づいているのかもしれないけど。

とにかく、俺の口からは言いません。

出来ればフューニャには何も聞かせないまま…平和に事を解決したいものだ。

ぐりぐりと甘えてくるフューニャの頭を撫でてやりながら、俺はそう思った。

とにかく、今はたっぷりとフューニャを甘やかしてあげよう。

俺も超癒されるし。

フューニャって何でこんなに癒されるんだろうな…。ルレイアさんがルルシーさんを愛でてるときもこんな気持ちなんだろうか。

などと下世話なことを考えていた、そのとき。

部屋の中に、インターホンの音が鳴り響いた。

「あ、フューニャ…。客だ。出てくるから、ちょっと離れてくれるか」

「…やです」

「こらこら」

俺は苦笑して、ぽんぽん、とフューニャの頭を軽く叩いた。

フューニャはむー、と不満そうにしながらも、のろのろと離れてくれた。可愛い。

宅配便かセールスか知らないが、クランチェスカ夫妻の憩いの時間を邪魔するとは、なんと罪作りな。

一体誰かと思って立ち上がり、ドアホンのモニターを見た。

そこに立っていた人物に、俺は思わず驚いて目を見開いた。
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