The previous night of the world revolution3〜L.D.〜

sideルヴィア

─────…その日、俺は早めに家に帰った。

フューニャにカタログを早く見せてあげたかった…というものあるが。

実は、今日は俺が、夕飯を作る日なのである。

いつもは食事を作るのはフューニャの役目なのだが、今日は俺が担当である。

フューニャが体調を崩したから?

いや、違う。今回はそんな理由ではない。

というのも、前回の…フューニャの里帰りの件以降。

どうもフューニャは、俺に家事能力が皆無であると判断したようなのだ。

お陰で、皿洗いや風呂掃除といった、小学生でも出来るような家事すら手伝わせてもらえない。

全部フューニャが自分でやろうとする。

俺としては、たまの休日の家事くらいちょっと任せてもらって、フューニャも息抜きをしてもらいたいのだが。

全然させてもらえない。

させてもらえたとしても、皿を洗う俺の後ろ姿を、柱の影からフューニャがじーっと見つめている。

「俺、そんなに信用ない?」と尋ねてみれば。

「だって里帰りのとき、あなたに家事を任せたら家が空き巣に入られたみたいになっていたんですもの」と言われた。

ごもっともである。

でも、言い訳させてもらうけど、あれはフューニャがいなくて寂しかったからであって。

俺の家事能力が小学生以下だという訳ではない。

そのはずなのだ。いや、本当に。

フューニャの中で俺は完全に、「妻がいなければ皿洗いの一つも出来ない、ダメ亭主」になってしまっている。

これは危機的状況であると思った俺は、今日の夕食当番を申し出た。

フューニャには散々渋られたが、たまには俺にも作らせてくれ、と押しきった。

夫にもそれなりに家事能力があるということを、フューニャに証明してみせる。

俺はそう意気込んでいた。

今朝、「何が食べたい?」とフューニャに尋ねてみると、「カレーが良いです」というお返事。

冷蔵庫には、いつもは買わないちょっとお高めのカレールーが、そっと分かりやすいところに置いてあった。

大体カレーなんて、市販のルーをぶっ込めばそれなりのものにはなる。

フューニャは俺の自尊心の為に、気を利かせて、小学生でも作りやすいカレーをリクエストし。

更には、多少下手しても美味しく食べられるよう、お高めのカレールーを買っておいてくれたのだろう。

その気遣いは嬉しいが、しかし、今回は不要である。

俺はフューニャのリクエストを逆手に取り、敢えて難易度の高い、「カレールーを使わない本格カレー」に挑戦してみることにした。

これで俺も、「家事能力のある夫」に昇格することが出来る。

調理の間、フューニャが家にいたら、俺を心配して気が気ではなかろうと思い、フューニャには美容院に行ってもらった。

折角晩御飯作らなくて良いのだから、ちょっとリフレッシュしておいで、と。

フューニャは申し訳なさそうに、「何か困ったら呼んでくださいね」と言い残して出掛けていった。

その顔は、幼稚園児に初めてのお留守番を任せる母親のようで。

…自尊心が、ちょっと傷ついた。

俺、そんなに信用ない?

とにかく俺は、フューニャがいなくても美味しいカレーを作り。

フューニャに喜んでもらうのだ。

そしてあわよくば、「家事の出来る夫」だと思ってもらおう。

そう心に決めて、頑張ってカレーを作ってみた…の、だが。
< 610 / 791 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop