The previous night of the world revolution3〜L.D.〜

sideルリシヤ

─────…。

…あの日以来だな。グリーシュに会うのは。

随分と…憐れな姿になったことだ。

何でこんなことになったんだろうと、お前は思ってるんだろうな。

…俺も思ってるよ。同じことを。

「お前…本当に『青薔薇連合会』に…」

グリーシュは、唇をわななかせながら言った。

「…そうだ」

「…俺に…復讐しに来たんだな?」

「違う。俺はただ、お前達を止めようと」

それだけなんだ。俺が『青薔薇連合会』に入ったのは、お前達を止めようと…。

しかし。

「…お前に言うことなんかない。俺は自分の意思でお前を捨てたんだ。お前は邪魔だったんだ!」

「グリーシュ…!俺はそれでも、お前と」

「うるさい!お前に何が分かる。貴族として生まれて、才能に恵まれて生きてきたお前に何が分かる!」

「…!」

貴族として生まれて。

才能に恵まれて。

確かにそうだろう。グリーシュにとっては、貧民街に生まれたことがずっとコンプレックスだったグリーシュにとっては、俺は羨ましいだろう。

でも。

「俺だって…俺だって望んでそう生まれた訳じゃない!お前だって知らないだろう、俺はずっと、お前に…」

「黙れ!ルリシヤ…お前に、お前なんかに殺されて堪るものか。俺は貴族にも、『青薔薇連合会』の幹部にだって負けない。お前に殺されて堪るか!」

「っ!」

グリーシュは、懐から小さな空き缶のようなものを取り出した。

…あれは。

「やめろ、グリーシュ!」

「死ね!」

俺は、グリーシュを止めようとした。咄嗟に駆け出そうとした。

だが、間に合わない。

グリーシュが空き缶のピンを抜こうとした、そのとき。

矢のような勢いで、ルレイア先輩の剣がぐさり、とグリーシュに突き刺さった。

グリーシュは、毒ガスを投げることも叶わず…前のめりに倒れた。

「…ルレイア先輩」

「…済みません。あんなものをこんなところで使われたら、我々も死ぬんで」

「…」

俺はよろよろと、グリーシュに近寄った。

「…グリーシュ」

「…う…ぐ…」

グリーシュを助け起こす。彼は口からごぼっ、と血を吐いた。

…致命傷だ。もう助からない。

彼が意識をなくす前に、俺はグリーシュに何を伝えたら良いのだろう。

「…お前は馬鹿だよ、グリーシュ。何で…何で、こんなことをしたんだ」

どうして、俺じゃなくて『愛国清上会』を信じた。

今も俺を隣に置いていてくれれば、こんなことにはならなかったのに。

「何でお前は…俺を信じてくれなかったんだ?」

俺はお前に…ずっと頼れる相棒でいるつもりだったのに。

「俺は…俺は、お前が羨ましかった…」

グリーシュは、蚊の鳴くようなか細い声で答えた。

それが、グリーシュが俺を裏切った理由だった。

「お前みたいに…特別になりたかった…。自分が特別だって…思いたかったんだ…」

「…だから、俺を捨てたのか?」

「…あぁ…」

…グリーシュ。お前は、本物の馬鹿だ。

ルレイア先輩の言う通りだ。

「お前は馬鹿だよ、グリーシュ…。お前は、特別だった。俺にとってたった一人の、特別な…大切な相棒だったんだ」

「…ルリシヤ…」

「お前は俺が羨ましいって言う。でも俺の方だって、お前が羨ましかったんだよ。何処に生まれたって、血を吐いて、歯を食い縛って、苦しみの中を生きながら、それでも自分の居場所を手にした者がいるんだ」

ルレイア先輩のように。

…そして、俺のように。
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