The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
無論、仕事の話なら別だ。

仕事上の頼みなら聞く。一応俺は部下だからな。

しかし、それ以外の頼みは知ったことじゃねぇ。

むしろ最近俺は、こいつから無意識のパワハラを受けているんじゃないかと思ってるくらいなのだから。

「…どうしても駄目か?」

「駄目だね。どうせ馬鹿げたことだろ」

「別に馬鹿げちゃいない。大事なことだ」

そうやってフラグを立てるから、豪快にへし折られることになるのだ。

「そ、その…。アドルファス殿。一応聞くだけ聞いてみるべきなのでは…?」

さすがに上司のお願いを即答で断るのはどうかと、ルーシッドが横から口を挟んできた。

じゃあお前が聞いてやれよ、と言いたいところだったが。

…まぁ、一応こいつは…帝国騎士団長だからな。

上司だ。パワハラだろうが何だろうが、こんな奴でも一応は上司なのだ。

…仕方ない。聞くだけなら聞いてやろう。

「…分かったよ。言ってみろ」

「このスマホゲーをインストールしてくれないか」

「…あ?」

オルタンスは、自分のスマートフォンをこちらに差し出した。

そこには。

黒髪ゴスロリの少女が、ぴょんぴょんと跳び跳ねていた。

「…」

「…」

「…」

俺も、リーヴァも、ルーシッドも、言葉が何も出てこなかった。

たっぷり一分くらい画面を見つめて、ようやく俺が絞り出した言葉は。

「…何だよ。これは」

「知らないのか?今流行りの美少女育成ゲーム、『ロリータ・プリンセス』だ」

本格的に上司の頭がおかしくなってきてるので、そろそろ真剣に転職を考えるべきかもしれない。

「お、オルタンス殿…。一体何処でこんなものを…?」

絶句して言葉が出てこないルーシッドの代わりに、リーヴァが半分喘ぐようにして尋ねた。

「ルレイアが勧めてくれたんだ。お友達が発行してくれたフレンドコードを入力すると、無料で特別なフレンド衣装がもらえるらしくてな」

「…」

「だからやってみた。意外に面白いぞ。で、俺もフレンド衣装欲しいから誰かを勧誘しようと思って。そんな訳だアドルファス、やってくれ」

「ふざけるな」

何でお前のフレンド衣装の為に、俺がそんな訳分からんゲームをやらなきゃならないんだ。

気色悪い。

「お前、良い年して美少女育成ゲームに熱を上げるとか、恥ずかしくないのか?」

「全く恥ずかしくない。自分が楽しいと思うことをするのが、何で恥ずかしいんだ?」

お前に一般常識を求めた俺が馬鹿だったよ。

そこまで開き直られると、俺としてはもう何も言えない。

「頼めないか。アドルファス」

「…」

こうなったら、もう最終手段だ。

俺は自分が上司のパワハラに苦しんでいるが故に、自分は上司として部下に同じ苦しみを味わわせたくはないと思っている。

ましてや、自分の責任を部下に押し付けるなんて論外。

それは分かっている。

だが、世の中には優先順位というものがある。

まず第一に優先されるべきは、いつだって自分だ。

従って。

「…ルーシッド。お前やってやれ」

「えぇっ!?」

俺はこの瞬間、『良い上司』であることを諦めた。

「俺は知らん。良いな、ルーシッド。しばらく付き合ってやれ。こいつが飽きた頃にアンインストールすれば良い」

「…そんな…」

「文句を言うな。今度お前の仕事代わってやるから。あと晩飯奢ってやる」

…割に合いませんよ…。というルーシッドの心の叫びが聞こえた気がした。





END
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