The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
俺は自宅マンションのエントランスで、エレベーターに乗る前に、自分の持ち物をチェックした。

右手には、キャンディやチョコレートの詰め合わせ。

左手には、有名ケーキ店のハロウィン限定パンプキンケーキ。

携帯を開き、今日の日付を確認する。

10月31日。

昼間ルルシーさんの部屋を訪ねたら、赤ずきんのコスプレをしたルルシーさんがいた。

間違いない。今日は確かにハロウィンだ。

「…よしっ」

これで、準備万端である。

俺は意気揚々とエレベーターに乗り、自宅を目指した。

俺は、今年こそ失敗する訳にはいかないのだ。

思い返す。去年のハロウィンの日を。

俺は去年の今日、手痛い失敗を犯した。

あの頃の俺は、ハロウィンなんてすっかり忘れていたし、覚えていたとしても、何か特別なことをするつもりはなかった。

今日ハロウィンだよねと言われても、「あぁ今日ハロウィンなんだ。ふーん」としか思わなかった。

けれども、去年のハロウィンの日。

俺がいつも通り帰宅すると。

俺の可愛い可愛い妻であるフューニャが、期待に胸を膨らませた顔で、「トリックオアトリート」と言ってきたのである。

俺はあの日、フューニャにそう言われるまで、今日がハロウィンだということさえ覚えていなかった。

今でも、あのときの馬鹿な自分を思い出すと、自分の横っ面をぶん殴りたくなる。

当然お菓子なんて用意していなかった俺は、しどろもどろ、ごめん忘れてた…お菓子持ってない、と謝った。

そのときのフューニャの、悲しそうな顔。

しゅんとして、それからぷくーと膨れて、ただいまのキスもさせてくれず、ぷいっ、とそっぽを向かれてしまった。

しかもその日の夕飯のメニューは、かぼちゃシチューに、かぼちゃグラタン。デザートにはパンプキンプリンまであった。

夕飯の間、フューニャは一言も喋ってくれず。

その後もしばらく不機嫌で、なでなでも、ぎゅっ、も、何もさせてくれなかった。

あの間、フューニャ欠乏症で死ぬかと思った。

ふん、と拗ねてしまったフューニャの機嫌が直るまでに、しばらく時間がかかった。

結局、謝りに謝り倒し、週末にフューニャの行きたがっていたお洒落なカフェのパンケーキセットを食べに行くことで、何とか手打ちにしてもらった。

今年こそは、同じ過ちを犯すまい。

そう思って俺は、今年のハロウィンを万全の体制で迎えた。

ケーキもお菓子も、ちゃんと用意した。

フューニャがまた「トリックオアトリート」と言ってきたら、両腕に山ほどのお菓子をあげる。

そして、お菓子を抱えてにこにこするフューニャを眺めて、思う存分ほっこりするのだ。

固い決意を胸に、俺は自宅マンションの扉を開けた。
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