レンアイゴッコ(仮)

プロローグ

𓂃𓈒 ❅ *


彼は多忙を極める人だった。会える日は少なく、隙間を縫ってわずかな時間に逢瀬を重ねるような付き合いでも、私は幸せだった。


「いつでも来ていいよ」


あまりに会う時間が少ないからか、少し前に自宅の合鍵を渡された。いつでもと彼は懐の深さを見せたけれど、親しき仲にも礼儀あり、ということで、私は律儀に“今から行くね”と、メッセージを入れてそれを使用していた。

それなのに、今日はうっかり、連絡するのを忘れていた。

今日はちょっとした特別な日。言い訳をするならば、期待していたのだ。

今更だけどメッセージを送らないよりは良いだろう。

〈今から行っても良い?〉

返事を待ちつつマンションに向かうけれど、結局マンションに到着するまで既読にはならなかった。

それもそのはず。

到着した彼の部屋で私は信じられないものを見てしまった。
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