レンアイゴッコ(仮)
まるで東雲の手のひらの上。東雲が傾けるまま転がされているようで、全部が彼の思い通りに進み、まったく腑に落ちない。

「何その顔」

突然、両手で両頬を軽く抓られた。びっくりしすぎて星を散らすように何度も瞬きさせ、身を捩って東雲の手から逃れる。

「……声帯、使いたくないんじゃ無かったの」

「必要な譲歩もあるもんで」

「(なんだそれ)」

東雲にとって彼女持ちという情報は、すぐに渡せるものらしい。別れた時とか面倒じゃないのかな。

それに、言及したいのはそれだけじゃない。

「初耳」

「何が」

「家、来るんですね」

「おかげで丸く収まった」

「丸く収めてくれた彼女に何か言うことは無いの」

何もしていないくせにやけに偉そうだ。ジト目で東雲を見上げた。私に出来る唯一の攻撃手段はこれくらいしかないのだから。

しかし、かすり傷すら付いていないのか、東雲は涼しい顔を崩さない。

まるで宝石。夜の光を閉じ込めた宝石。その知的な双眸が、高い位置でゆるりと私を見下ろす。


「彼女がいてくれて良かったわ」


そして子どものいたずらに似た称賛をくれる。
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