レンアイゴッコ(仮)
東雲はコンビニで私か好きなお酒と、良くお供にしているおつまみと、お気に入りのシュークリームを買ってくれた。買収された私の機嫌はちょっぴり回復する。

「デザートが無かったから拗ねてんだろ」

理由を食欲のせいだと思っているらしく、こんな言葉を追加されてしまった。

「……ちがうよ」

「じゃあ、なんで?」

「……別に良いでしょ!」

だから、素直にお礼が言えないまま東雲の家に到着する。私、かわいくないなあ。

毎回、東雲は私を先に室内へと誘導する。狭い玄関にもたついてしまうけれど、東雲は決して急かしたりしない。今日も東雲は、ドアにぺたりと背中を張り付けて、私の準備が整うのを待つつもりだろう。

狂わされている自覚がある。

あの日から。前回私の家へ東雲が来たあの日以来最初の二人きり。

靴を脱ぐために屈めていた上半身をゆっくりと起こして振り向いた。

「……何?」

目の前の東雲が表情に困惑を乗せる。顔が熱い。そんな東雲に向かって、大きく手を広げた。

東雲は忘れたのだろうか。約束というよりも、食べ残しみたいな忘れもの。


「きょ……今日の分の、五秒」


しどろもどろになって告げると、東雲の目に動揺が光る。
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