レンアイゴッコ(仮)
「うーわ、軽」

突然、軽々と抱き抱えられ、頭上にクエスチョンマークが乱雑に並ぶ。

「ちょ、おろして!?」

「そう言えばさっき、何回言っても聞かなかったなあと」

「なにを!?」

「俺の言うこと」

遺憾だ。いつ、私が東雲の意にそぐわなかったのか。

「おーろーしーてー!」と、抗議まがいに足をバタバタと動かしていると、いつしかパンプスが両方脱げてコトンと小さな音を立てて落下し、東雲はそんなことも気にせず歩き始める。

「いい加減落ち着け」

これが落ち着いていられるか。

東雲だって細いはずなのに。まるで子どもを寝かしつけるように私を抱いて歩く、意外とたくましい身体に感情が追いつかない。

酔ってる、絶対酔ってる、明日覚えてたら、容赦しないからな……!!

「も、下ろしてよ!」

「分かった」

あっさりとソファーに下ろされた。下ろされた時に私が必死すぎて体勢が崩れ、東雲に覆いかぶされる形になった。

その距離に驚いて息を飲む。

……近い。近すぎて見惚れる。

長いまつ毛。形の良い目。宵闇の中に一等星がきらりと煌めいているような澄んだ瞳。

見つめられて胸が苦しいのも、胸が高鳴るのも、絶対に東雲のせいだ。
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