レンアイゴッコ(仮)
東雲のくすぶった苛立ちの原因を探す。取りこぼさないように記憶を巻き戻すと、あるひとつを見つけた。

「もしかして、居酒屋で口パクされた……あれのこと?」

半信半疑で尋ねると「分かってんじゃん」と、平坦な正解をもらう。わかってるって、分かんないよ。

「……何て言ったの?」

百パーセントの正解に近づくために首を傾げる。東雲の口が先程と同じ形になる。

「“近い”」

「近い?」

「鈴木との距離感、おかしいだろ」

面食らってしまう。世間にまったく興味がなさそうな涼しいお顔で、鈴木との距離を気にしてたの?

「…………そうかな?」

「そうだよ」

「今の方が近いよ」

「俺はいいんだよ」

「なんで?」

「彼氏だから。……で、この手、邪魔なんだけど」

東雲の片手が私の手首を掴む。両手は東雲の胸元を支えていて、その重みでプルプルと震えていた。

邪魔じゃない。これは私の抵抗だ。
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