レンアイゴッコ(仮)
「まあいいや」

そう言って東雲は身体を離し起き上がった。優しい石鹸の香りが挑発するように鼻先を擽った。

私は、東雲をすこしでも挑発出来たのだろうか。

解放感で満たされ一安心していると「月曜13時、ミーティング入ったから同席よろしく」と、突然東雲はスケジュールを告げるので、慌てて頭の中に月曜、ミーティング、と叩き込み「了解」と答えた。東雲は続ける。

「火曜18時、A社デザイン案提出」

「あ、そうだっけ。デザイン案ね」

「木曜、D社見積もり完成」

「まって、月曜13時ミーティング、火曜18時A社デザイン、木曜見積もり、何社?」

「火曜18時A社デザイン、月曜13時開発部ミーティング、金曜19時金わら裏メニュー、木曜D社見積もり案、水曜19時水族館」

フラットな声がスケジュールを刻む。仕事に紛れたプライベート。

「(水曜19時水族館?)」

「先風呂入る」

「えっ……」

マイペースな男はそう言って入浴の準備を始めると、浴室へ向かっていく。その背中をポカンと口を開けながら見送った。

「水族館……?」

これは仕事?それともプライベート?やっぱり……仕事?

瞬時に頭の中で自分の家のクロゼットを開き、自分を着せ替える。あれでもないこれでもないと悩み、我に返った。

「デート……なわけ、ないよね」

そうかも。いや違う。……可能性は捨てられない。

やはり私と東雲との関係は、いつまでも東雲の方が一歩上手だ。
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