レンアイゴッコ(仮)
微睡んだ意識を何とか保とうとうとうととしていれば、突然、照明が消された。

「おーい、起きろ」

「ふあ、」

間抜けな声とともに目を開けると、暗い室内をロウソクの灯りがぼんやりと照らしていた。当たり前に驚いて目を見開く。

「……え、」

テーブルには、ちいさなロウソクが立てられた、ちいさなショートケーキがお皿の上に行儀よく置かれていた。

困惑と歓喜がせめぎ合う。

今日、連絡無しでも、それでも彼氏に会いに行ったのは、今日が特別な日。私の誕生日だったからだ。

おめでとうの一言を貰いに行ったのに、別れようを言うなんて思っていなかった。


「こんなんで悪いな。てっきり、彼氏に祝ってもらってるもんだと思って、用意してなかったんだわ」


そうか。さっき、コンビニでゴムを買いに行くと言って私を追い払い、ケーキを買ってきてくれたんだ。

「東雲ぇ〜……」

一瞬で東雲の優しさが胸に染み渡り弱さがさらけ出された。東雲が無愛想なのにモテる理由がわかる。これは女は落ちる。

「ロウソク消しなよ、動画撮るから」

「いや無理、すっぴんだし泣き顔ブスだし」

「馬鹿なの?だから撮るんじゃん」

「ドS!意地悪!性悪!!」

東雲という男は、私にすんなりと優しさを渡すつもりはないらしい。
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