レンアイゴッコ(仮)
「(それにしても宮尾ちゃん、いい子だな……)」
何はともあれ宮尾ちゃんの気遣いに気が楽になった。
宮尾ちゃんは自分のパソコンとスマホを交互に見ている。すると宮尾ちゃんのデスクを横切った坂下先輩が「何見てんの?」と声をかける。
ああ、嫌な予感だ。
「妃立さんが今夜、彼氏さんをホテルに誘いたいらしいので使えるテクを集めようと!」
開け放たれたドアからありもしない諸事情が飛び込んでくるから衝撃が膝に来て崩れ落ち……即座に体勢を整えてオフィスに出る。
「ちょっと!!間違った情報を吹聴しないで!?」
慌てて取り繕うと、真横で「ゴホッ」と咳き込む音が聞こえた。そろ〜……っと慎重に振り向くと、そこには口を抑えた東雲がいた。バッチリ聞いていたであろう、アンニュイな平行二重はいつも以上に光を失っている。
ちがう……ちがうから!
と、無言でふるふると首を横に振ってなんとか無実を訴えた。最悪だ。
しかもオフィスに居た同僚には全員私がデートだという事実が知れ渡った。
「部長、今日の妃立さん、予定があるみたいなので定時上がりでお願いしますね」
「はあ……デートか」
「気合い入れてるみたいなので、絶対ですよ!」
部長にまで知られてしまい、もう、いたたまれない。
「……すみません……」
「俺は仕事してくれれば何だっていいよ」
こんなやり取りがあったおかげで、定時で上がった際は「ファイトです〜!」なんて言葉で見送られてしまう。
静かに見守ることを知らない職場に、社内恋愛をしている事実が知られたら、おそらく地獄を見るだろう。
やっぱり、秘密にしていて良かった。
あの時の選択肢は間違いではない。