レンアイゴッコ(仮)
大水槽の前で隣の東雲を見上げた。深い青に照らされて、その横顔が神秘的だ。

その感想は私だけではなく、居合わせた女性も同じらしく、東雲越しに、女性たちが彼を見てうっとりとしている様子が見えた。

かっこいいよね、顔だけは何時間でも見てられるもん。
でも、残念ながら射止めるのは難しいよ。
さっきのベニハゼも一途だけど、引く手あまたの東雲もまた一途だ。

──……東雲は、以前は誰ときたのだろう。

聞けばいいのに躊躇ってしまうのはどうしてか、私は自分が分からない。

「ねえ、私クラゲが見たいな。東雲は?」

「順路に沿って歩けばそのうち見れるから、言わない」

「夢がないなあ。お互い、公平に見ないと後悔するでしょ。東雲の好きなものも気になるし」

持論を告げると、東雲は顎に手を置き「成程」と頷いた。東雲の美しい顔が歪み、気まずそうに視線が逸れる。

「……あざらし……」

忘れ物みたいに告げられたワードに、きょとんと瞬きした。

「東雲、あざらし好きなの?」

「好き」

東雲琥珀はあざらしが好き。

なんなのこのギャップ。深海魚と睨み合ってそうな見た目なのに、あざらしと見つめ合うの?

かわいい。美しいのに可愛すぎるこの生き物を、いますぐ、ぎゅ〜って抱きしめたいのだけど、嫌がられそうなので我慢する。
< 116 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop