レンアイゴッコ(仮)
図らずも頬が緩んでいると、氷点下の視線が私を突き刺す。

「……何にやけてんの……」

聞かなくても、相当嫌そうだということだけが分かる。

「ごめん、つい。じゃあ、あざらし見に行こう」

「クラゲから先にいいよ」

「話してたら私も観たくなってきたの」

というよりも、あざらしを見て無表情を崩す東雲が見てみたい。こっちが本音だ。

「ん」と手を出すと「なにその手」と、東雲は眉を顰めた。なんとなく覚えてきた。東雲の無表情は防御の一種。

「ちゃんと牽制して下さい」

けれど、私が笑うとその防御はかなり崩れる。

私の地雷欄が“浮気”であるように、いつか東雲琥珀の弱点のところに“妃立柑花”と書けるようになるといい。


「じゃあ、遠慮なく」


ぎこちなく繋がれた手と手。低体温な男の手のひらは今日も冷たい。

あざらしの展示スペースはテラスにあって、近くにベンチも併設されていたのでゆっくりと見ることが出来た。一際目を引く円柱型の水槽を楽しそうに泳ぐあざらしを見て、東雲は顔色ひとつ変えていなかったけれど、飽きもせずにじいっとみつめる姿に、本当に好きなんだろうなというのが伺えた。

子供の頃はカブトムシと恐竜が好きで、今はあざらしが好きな東雲。

「他に好きな物はあるの?」

なんとなく訊ねると、東雲は一言「バレー」と告げた。私と一緒だ。
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