レンアイゴッコ(仮)
「(そうなの?)」

進展があったなんて、そんなの聞いてない。

「(……そうなの?)」

なぜかチクリと胸を突き刺す痛みに戸惑いながらも、ぴくりとも動かない東雲の美しい表情をみつめていると、東雲の口が動こうとしたそのときだった。

「あ、いたいた!お疲れ様です〜」

突然、休憩室の入口から別の声が聞こえてきた。見覚えのあるその子は同じ課の子ではなく、先日の飲み会で東雲と飲んでいた女性社員だ。

「東雲さん、見積書出来ましたよ〜!」

お酒が入っていない状態でも間延びした声らしく、それが何となく鼻についた。東雲はどうやら彼女に仕事を頼んでいたらしい。

「ああ、どうも」

「言われた通り、午前中までに仕上げましたよ?」

「ギリギリな」

見積書くらい私でも作れるのに、なあんでその子に頼むかなあ……。

もしかして私、信用ないと思われてる?

東雲の評価に悶々としていれば、

「よしよししてくださいっ!」

と、意を決したような声が届いて、ポカンと口を開ける。

「(……えええ?)」

聞き間違い、かな……?

坂下先輩と顔を見合せた。鈴木は茶化すように口笛を吹いている。膝の上に乗せた手をぎゅっと握りしめた。

何となく、いやだ。

「はいはい」

簡単に女の子の頭を撫でる東雲を見るのも、やだ。
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