レンアイゴッコ(仮)
𖦊̌


脱衣所からリビングに戻った俺は、思わず膝から崩れ落ちてしまった。

「(なんでんなところで寝るかな……)」

あろうことか、妃立は俺のベッドで寝ている。普通に寝ているだけで妃立は可愛いのだけど、かんなを抱きしめて眠るその姿はあまりにも尊くて、尊さが膝に来たのだ。

軽く意識が飛びそうになったけれども、悶えている場合じゃない。

「……妃立、起きろ」

ベッドに膝を乗り上げて身体を揺すると、妃立の顔が不服そうに歪んだ。申し訳ない。「ん……」と、甘い声が妃立の小さな口から漏れて、俺を聴覚を刺激する。

「(理性、理性、理性を保て……)」

すでにぐらぐらなそれを必死で構築させて、もう一度「妃立」と名前を呼ぶ。反応はない。肩を小さく叩く。反応は同じ。頬をむにっと摘む。細いのに滑らかで、柔らかい。

「柑花」

蝶が羽を休ませている時のように、妃立のまぶたがゆっくりと上がる。

「ふふ、こはく……」

綻ぶ。美しい花が俺だけに笑顔を見せる。

危うい理性。必死で保ったものが崩れそうになる。
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