レンアイゴッコ(仮)

「(我慢我慢我慢……耐えろ、俺……)」

大きな深呼吸を繰り返し、心の中で修行僧になる。

「スーツ、シワになるから起きろ」

「んー……」

煩わしそうに身体を動かした妃立はかんなから手を離し、俺へ手を伸ばす。

「脱がせて?」

積み上げられていた理性、という名前の塔がガラガラと崩れていく気がした。代わりに熱が溜まるのを感じる。

ベッドに乗り上げ妃立の身体を組み敷いた。目を瞑ったまま、手を広げる彼女は脱がせてと言わんばかりなので片方の袖を引き、背中に腕を回し脱がそうとした。けれど、まあ上手くいくわけはなく、体勢を崩してしまいあっという間にベッドに押し倒す形になった。

「ふふ、あったかぁ……」

妃立の吐息が耳元に触れる。ああ、熱い。シャンプーか香水か、俺のベッドの中には妃立の香りが漂っており、熱さで理性はさらに溶けていった。

耳元や頬に口付けながら完全にジャケットを脱がせた。

最後までやっちゃえと悪魔が囁く。……でも、俺は全身の力を脱力させて、妃立の身体に覆いかぶさった。

「(……無理だ……)」

もしもまた嫌われてしまったら、俺はもう立ち直れない。
< 143 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop