レンアイゴッコ(仮)
「懐い……緊張して、星燐高校との練習試合の時は大体サーブミスするシノ、超なつい」

莇が不本意な思い出を懐かしむ。

妃立のことは、入社する前から知っていた。それは莇と藤も同じ。俺たちは元バレー部で、高校の頃、練習試合の度に妃立とは顔を合わせていたからだ。

妃立は高校のころから可愛くて、他校のバレー部の中でもファンがいるほどだった。俺もその中のひとり。おかげで星燐高校との練習試合は、楽しみと緊張が混ざりあって、前日はなかなか寝付けなかった。

「シノ、高三の時だけはどんだけ告られても、断り続けてたよな。あれは伝説」

「単に、カンナに告れなかっただけなのに」

それな、と言って二人は思い出を酒のつまみにする。

あの頃俺は、妃立と話し掛けるのさえ無理だった。

「あの子、男バレに彼氏いたっぽいもんな」

「一年のスタメンだろ、あのミドルブロッカー」

そう。妃立にはあの頃彼氏らしき男がいたのだ。別に珍しいことじゃない。妃立なら当たり前のことだろう。分かっている。わかっているのにもどかしい。

彼氏らしき選手と楽しそうに話したり、たまに怪我の手当をする妃立を、俺は離れた場所で見守ることしか出来なかった。

告白どころか足踏みしていた高校時代。就職したら同じ会社で、しかも同期で、同じ部署で。

過去、見放された神様が、もう一度微笑んだ気がした。
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