レンアイゴッコ(仮)
あんなの、酔った勢いで零した即席のわがままなのに。

それさえ、ううん、こんな些細なことまで拾ってくれることないのに。

「(反則だ)」

いつの間にか私の中にある東雲琥珀への抵抗力がかなり低くなっていて、ちょっとした行動が私の心をやわらかくする。

膝から下の力が抜けてよろよろと力なくしゃがみ込んだ。

「…………ごめん」

ポツン、と小さな謝罪が口蓋を滑る。すぐ間近で東雲が座り込む気配がした。直後、よしよしと頭を撫でられたら、もう、我慢っていうのは困難だった。

「……それは何に対する謝罪?」

呼吸をすれば、泣いたせいで気道が引き攣る。

「……こんなことなら、引き返さなきゃよかった」

「どこから」

「さっき、東雲のマンションまで行ったの」

「まじかよ」

「まじです。本当はいつもみたいにちょっと会って帰るつもりだったんけど、なんで可愛こぶって電話しゃったんだろ、余計な手間取らせちゃった」

静かに顔を上げて、濡れたまぶたを指でなぞった。東雲は困惑を浮かべていた。

「……余計な、手間」

「迷惑とも言う」

「違うだろ。俺にとっては、必要な要求」

「そんなわけないでしょ」

「彼氏の特権、な。それが存在意義。妃立のわがままは迷惑じゃあない」

何度も、何度も何度も、何度だって。

離れようとするわたしを、東雲は引き寄せる。
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