レンアイゴッコ(仮)
「何をしてもいいから、妃立が自発的に来てくれると嬉しいわけよ、俺は」

静かに笑った東雲は、頬に張り付いた髪の毛を丁寧に払うと、私の耳にそっと掛けた。

けれども、疑問だ。

「それを我儘とは言わないの?」

明々白々な疑問。

「本音って言えよ」

東雲はあっさりと覆すと、すとん、と何かが落っこちた。嫌われるどころか、わがままを一蹴して、まさか、何をしてもいい、という言葉を向けられるなんて、一体どうして想像できた。


「東雲に会いたいと思ったのは、私の本音」

「ああ。可愛いな」

かわいいわけ……ないのに……。

東雲は可愛いのハードルが人とは違うのか。やっぱり、かなり特異な嗜好をしているのか。

耳を撫でていた片手は私の頬を包み込んでいた。少し冷たいその体温が気持ちいい。

──……だったら。

「……他のわがままにも、応じてくれる?」

「要求による」

「提案なんですけど、二人の時は、変えていいですか」

「何を」

「東雲のこと、名前で呼びたい」

うつくしいその顔の眉間がぴくりと寄る。

いつか言えなかった言葉を、丁寧に紡いだ。東雲の瞳が揺れるのを見た。

「……琥珀」

そのタイミングで近寄る距離に、障害はなにも無かった。
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